日別アーカイブ: 2016年11月1日

10/22日~ 11/6 「大地と色彩」 社会福祉法人みずなぎ学園 みずなぎ鹿原学園 社会福祉法人 南山城学園

dsc_8021風がにわかに冷たくなり、秋の庭も風情深まるきりん舎。このたびは舞鶴市のみずなぎ学園と城陽市の南山城学園 円の同時展示を行いました。

1階手前の部屋と2階はみずなぎ学園、1階奥の部屋は南山城学園の展示です。今回の展示は出品側の要望により、各作品のタイトルや作者名等の紹介キャプションはありませんが、施設ごとの作品の指向性や制作にあたっての考え方を感じ取れる展示になっています。

dsc_80311階手前にはみずなぎ学園の刺繍作品。これだけまとまった刺繍を見るのは、きりん舎でも珍しいパターンです。タペストリー状の大きい作品、小品、カボチャやテントウムシといったモチーフが一目みてわかるもの、幾何学パターンのデザインにかわいい花や動物を並べたもの、また抽象的な模様から色の波が紡ぎだされるようなものとさまざまなタイプの刺繍が並べられています。カボチャをモチーフにした作品は、立派なカボチャの実を画面いっぱいに配置。縫い目を重ね、巧みな色使いで野菜の色のグラデーションを表現していて見事です。形を単純化して取り出し、明確に見せる技に確かな腕を感じます。

610junかわいい子どものような人物二人が並んだ作品は、1cm程度の幅を保ちながら、刺繍糸をリボン状に繰り返し、色を表現しています。刺繍糸も太めですが、常に同じ調子で繰り返す縫い目によって、縫われていない部分の下地が輪郭として表れて力強い表現になります。繰り返し縫われた布にはしわが寄り、スタッフの方によって綿が入れられ立体的な仕上がりになりました。刺繍表現として誰にもまねできない個性を感じます。

dsc_8029赤い下地布に細い糸で小さく縫い付けられたぬいぐるみのような2匹の動物。熊と犬に見えました。2mm程度の繊細な縫い目で一見目立たないですが、数色の糸をよった刺繍糸を使っているのが鮮やかな下地布に際立ち、近寄って見るにつれて糸が浮き上がって全く違うイメージが広がります。この作品のように、いくつか違う色を一緒によって縫い込む作品がいくつか見られ、複雑な色合いを表現して効果を上げてみえました。縫い目の一目一目が下地を覆いつくすように縫い付けられ、圧倒的な波となってうねって見る人に迫ってきます。一糸にこめられた集中力の高さは鋭い緊張感をはらみ、他者としての存在を強く意識させます。

dsc_8101奥へ進むと、次の間には南山城学園の絵と陶の作品群が所せましと並んでいます。絵はクレヨンなどを使って画用紙や木板の表裏両面に描き殴った作品など、多彩なとりあわせで質量ともに見ごたえがあり、作り手の個性を強く感じさせる作品が集まっています。陶作品のいくつかは成形するというよりも、指で押してみる、ほじくり続ける、ごろごろと転がす…といった手の跡が如実に残る土の塊。手に伝わる感覚に没入し、それが知覚のほとんどすべてになりかわる時間を追う気持ちが理解できます。

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また、単純なピースを繰り返しくっつけて作った作品も見受けられました。厚みのある円盤状にした塊を合わせてくっつけて、芋虫の立ち上がったような形に出来上がった作品は、接着面でしわが寄り、迫力ある存在感を放っています。短くちぎった塊を継いで塔状に仕上がった作品は構造的なおもしろさを感じさせます。円状の塊を集めた作品としては、「河原の賽の石をつむ」という表現がイメージとして浮かぶような作品や、鈴のような丸く不可思議な形態がころころと生れ出た作品もあり、こちらは安易な解釈を拒むところに魅力を感じました。

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二階の展示は再びみずなぎ学園の展示になり、絵と陶の作品が並びます。水にうつる植物の影を思わせる作品は、水鏡のような静止した画面で清冽な印象。

 

 

 

また赤い山の峰々を思わせる作品では、くっきりと描いた輪郭が尾根と谷のように見え、メリハリのある画面構成の中にグラデーションにも見える陰影が幻惑的な印象を深く残します。その他の作品についてもいずれも潔い筆致で描かれ、力のこもった美しい画面で引き込まれました。

 

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陶作品では、細長い壺状のオブジェと人物もしくは動物の頭像が並べられています。壺のオブジェはどれも丈が高く全長60~80cm程度ほど。ほとんどは手びねりならでは自然な形と質感で、上に伸びあがる形が並ぶことで空間におもしろい効果を与えています。壺のうちの一つは、真ん中に穴のあいたチップ状の薄片がびっしりと張り付き、焼成による茶灰色~墨色の濃淡の表情が変化して豊かな印象に仕上がっていました。また実物大の動物の頭像のような作品においては、作品への集中力や技術の高さを感じさせました。

 

 

 

 

今回の展示は、状況の異なる二つの施設から集められていましたが、作品の一つ一つは一言でくくれない個性がありました。名前のない作品についてレポートするのは、少ないヒントによすがを求めて作品に目をさまよわせる体験でしたが、名前にしばられないからこそ、その作品を生み出した個々の手の動きを追い、その手と対話する展示になっています。

※ 今回の展示会は、京都府「平成28年度地域アート展開催事業」の補助金を受けています。