秋深ききりん舎で若狭ものづくり美学舎の作品展示が開催されました。2019年11月以来の登場なので6年ぶりですが、新たな作家さんの展示がどれも新鮮で、同所の個性の豊かさがうかがえました。
ギャラリー1階の最初の間では江戸雄飛さんの作品6点。

イラストボードやキャンバスなどにペンやマーカーなどで一見して殴り書きのように見える作品群が並びます。作者紹介によれば、これらは作者が思いつき口にしたさまざまな言葉を同時に筆記したもので、気の赴くままめぐらしているように見える曲線の塊は、言葉だったという事実が衝撃でした。書きなぐるうちに言葉が見えなくなり、抽象画のようになるそうです。そして、今回の展示の宣伝のメインビジュアルに採用されている作品は、キャンバスいっぱいに塗られた緑色基調の画面ですが、黒、白、青、黄とさまざまなアクリル絵の具が重ねられ、吸い込まれそうな奥行きのある作品です。
次の間では二人の作家の作品群が並びます。

まずは杉田優子さんの作品4点。リボン状に裂かれた布地のハギレをひものように角材や梱包用の段ボール箱などに掛け渡したり巻き付けたりしたインスタレーションが並びます。紙箱はところどころ穴が空けてあり、ハギレは箱の四辺を囲うだけでなく、その穴にも通されて張り巡らされているのでハギレの引っ張りで若干つぶされ、すっかり色とりどりに覆われていきます。ハギレはそのときどきで色彩の調子を合わせられているので、作品ごとに基調となる色合いが違って表情が生まれます。
そして榎木盛力さんの作品2点と下描きやデザイン描き貯めたノート集。

ともかく自身の考える設定と巧みな画力で作られたキャラクターたちが作者の創造する世界に生き生きと表されています。「深海えのやま城V2」「池沼エノ山城MK3」という独特なタイトルに沿って展開されているのは、動物やマシーンからデザインされたキャラクター達が緻密に組み合わされた宮殿のようなオブジェは、よく見れば魚や亀や蛙や虫などの水生生物たちが左右対称を基調に構成され、設定の細かいところまでよく考えられていて驚きます。
奥の間では、浅野隆典さんの「養老線」シリーズの7作品。

岐阜~三重間を走る養老鉄道の列車を画面いっぱいに描いています。ほぼ全てが紫色一色の車体に黄色の窓をつけた3車両が画面の両端ぎりぎりまで大きく描かれ、黒い車輪が接地する地面は砂利を表す小粒の円が規則正しく敷き詰められています。時折絵の上方に「播磨」「石津」「多度」など養老線の駅名が書かれていたり、マーカーの塗り方も少しずつ違っていたり、その時々の工夫が見られます。今回は一部屋の四周の壁をすべて使って車両をつなぐように並べた展示方法も良くて、来訪者は養老線の旅を追体験しているように楽しい気分になります。

2階では、坪内一真さんの「夢追い走る少年少女」「END OF THE WORLD/少年達」「END OF THE WORLD/THE FIRST CONTACT」の3点。「夢追い走る少年少女」につけられた作品解説によると作者は友人とSF小説の創作を楽しんでおり、これらの作品は作者の小説の舞台となっている並行世界を表現したもののようです。世界が奇妙にいびつに歪み、そこに立ち上がるヒーロー、ヒロイン、友人や仲間たち、空や海から襲い掛かる異形の敵、かなり細かな設定を考えているようで、こちらも想像力をその一つ一つを読み解いていくのはとても楽しい体験でした。
ギャラリーピアノはアトリエにしまち通りメンバーのKEISUKEさんときりん舎運営スタッフの前田栄子さんがそれぞれにすてきな音を奏でてくださり、来訪者のみなさんは耳を澄ませて聞き入りました。


