NPO法人きりん舎では、昨年5月から「アトリエにしまち通り」を開始し、ほぼ月2回のペースでアトリエを開放しています。利用者は全員で8名となり、それぞれが自分なりの表現を追求し、絵を描くことを楽しんでいます。
この一年間で利用者が描いた絵は全部で300点以上におよび、このたび作品を選んでアトリエ展を開催することとしました。綾部市の栗の木寮と宮津市の宮津サンホームを迎えて三者同時展とし、日頃からきりん舎の活動にご理解ご協力いただいている陶芸家の鈴木隆氏、造形作家の松浦つかさ氏、きりん舎理事で照明デザイナーである西村氏・日根氏からも作品が寄せられました。そして、きりん舎のウェブサイト運営を担う岸田氏の土曜日限定ギターソロライブもあり、ギャラリーはにぎにぎしく盛況でした。
まず、庭に入ってすぐ普段と様子の違うことに気づきます。鈴木隆氏の作品があちこちに見られ、いくつかは木にぶら下がって食虫植物のよう、またいくつかは地面に据えられた土器のよう。これらの不思議な形のオブジェは、実用の器ではなく、板状の粘土を継ぎ合わされており、時折線刻や手の跡や焼成の色によって表情が立ちのぼります。木の枝や木陰にひっそりたたずみ、環境との対話が試みられているようです。
室内でも2点展示されており、焼きあがった土の色がことのほか美しく、静謐なたたずまいに打たれます。
玄関の間では、アトリエにしまち通りの作品が、作者や絵の傾向ごとに展示されています。以下、羅列ですが紹介します。
クリスマスやハロウィンなど行事の楽しみを表現した絵、花や花火のモチーフをパターン化して構成した絵、なぐりがきのクレパスが存在そのものをとらえた絵、富士山や月と星の夜など風景と幻想をクレパスと水彩で美しく表現した絵。
「生きていてよかった それを感じたくて…」と広島にまつわる歌の言葉をつづった絵、黒々とした機関車の絵、衝動の赴くままに好きな消防車を躍動感いっぱいに描いた絵、動物のカバを素直に大きくとらえた絵、身近な文具を組み合わせて画面構成を試みた絵。
ハムスターの姿を幾何学的に分割しパッチワークのように色を組み合わせた絵、レインボーカラーに塗ったクレパス下地を黒色で塗り込めてハート型などを掻き抜いた絵、紅葉や桜など季節感を表現した絵、ポケットモンスターに出てくるキャラクターたちを模った粘土による立体。
習慣的に絵を描くという時間が重ねられ、イメージと手の結びつきが強くなり、表現の幅に遊びや熟達の兆しが見られます。展示方法に一つ注文をつければ、もともと無題が多いためでもあるのですが、作品名の案内が無かったのは残念です。作品名は絵に込められた思いを探るよすがとなります。今後は表示をぜひお願いしたいと思います。
階段下から奥の間の西側にかけては、寺岡義雄(栗の木寮)さんの作品「色いろ」シリーズ作品3点が続きます。段ボール、または画用紙の上に顔料系マーカーまたはクレパスを使い、いろんな色を使ってぐるぐるとうずまきや線などの幾何学的な模様や殴り書きの線を繰り返し描き、それを何層にも重ねています。段ボールに描いた絵は、枠取りで画面を左右に2分割し、マーカーの色を重ねる順番を変え、上に乗せられる基調色から、青系、ピンク~赤系に分けられています。より大きな画用紙で描いた絵は、模様を描くそれぞれ色が手の動きに合わせて海の底で動く波のように引いては押し寄せ、あわいで交じり合いながら画面に光と陰の空間を生んでいます。もう一つ画用紙に描かれた絵は先の幾何学的な積み重ねから打って変わって、クレパスで描きなぐり、面が現れる筆致そのものを味わっているように見えます。
続けての展示が西村美由紀氏、日根伸夫氏の照明インスタレーション3作品です。光の3原色や分光といった原理を応用しながら、光が拡散し、影が生まれ、ゆらぐ様子を回転や時間の制御を使って表現しています。照明デザイナーである二人は、これまでもきりん舎の展示で作品にあてる照明を調整してきました。作品の特徴を的確にとらえて引き立てる工夫は、寺岡さんの作品群との響き合いにおいても存分に発揮されていました。
奥の間西側は、玉井勝さん(栗の木寮)の「Forever AKB48」シリーズの6作品が目に入ります。アイドルグループ名に合わせて、機関車(?)、飛行機(飛行船?)、ビーチパラソル、テレビカメラ、釣りをする女の子(?)などが軽快な線で描かれています。細くても迷いのない線、とりどりの色合い、旅行やリゾートを思わせるイメージなどの表現にブレが無く、ポップで楽しい雰囲気があって明るい気持ちになります。
続いて坂東明さん(栗の木寮)の「野菜」は、大根やカブなど4つの冬野菜が土にもぐっているところを断面的に描いています。おそらくご本人が育てている野菜を絵にしていると思われます。というのも、野菜にはひげ根がたくさん生えており、それらを育てている畝のようなものも野菜の下に示すように描いているのです。作者の掴んでいるリアルな感触や愛着が伝わる絵です。
窓際から東側は、高谷知恵子さん(宮津産ホーム)の5作品。真摯な観察眼と生活感や生命観が織り込まれています。「カーネーション」「もくれん」「天女」「夜桜」は、大きな紙に太い墨の筆が闊達に走り、母への思い、モチーフに託された艶やかさやしなやかさ、生命の力などが捉えられています。とりわけ「すずらん」は、「茎のところの表現が難しかった」とのコメントの通り苦心が感じられ、対象と向き合う力の強さが感じられました。
松浦つかさ氏からは3点の木彫が展示されていました。松浦氏は、仏師として、また現代アートのオブジェ作家としても活躍しています。今回は一塊の木片や丸太の節目から仏が現れており、古材の梁を展示台に使ったりして、実験的な試みとして展示したということです。それらは漆を少し添える程度で色付けされていますが、彫刻の跡は浅く荒削りで、そこに見えた仏の姿に従って最低限の手だけを添えるというアプローチです。節だった木の塊が放つ存在感、線刻に近い淡い表情は、円空さんの仏に近いように思えました。
7月21日土曜日には岸田氏によるギターソロライブもあり、ギャラリーは心地良い音に包まれました。ギターの音色は柔らかで、作品群との相性も抜群で、いつまでも聴いていたいようなライブでした。次回の展示では、もしかすると岸田氏のライブが拡大版で見られるかもしれません。どうぞお楽しみに。