月別アーカイブ: 2018年3月

3/24~4/8 旅するまなざし―みつめる世界

 

春の陽気に包まれたきりん舎の庭では、イヨミズキの薄黄色の花が満開です。今回の展示は、京都市ふしみ園 アトリエやっほぅ!!から5人の作品を展示しました。アトリエやっほぅ!!の展示は2013年からほぼ5年ぶり。以前展示のあった3人に新たな2人の作家を加え、過去2~3年ほどの近作を中心として作品が選ばれています。

 

1階の玄関で出会うのは嶋津 仁さんの作品。動物の顔を正面からクローズアップしてとらえた作品が以前から人気ですが、今回も人の顔や乗り物の正面を画面いっぱいに描いています。「微笑む男」は、顔の皮膚の黄色、薄い水色の目の上に吊り上がった眉、真っ赤に引き結ばれ片方に上がった大きな口、オレンジ色の輪郭線など、自信ありげな表情と色の組み合わせから明るい好ましさが感じられます。よく見ると鼻の周囲にかすかな緑色の影がさして立体感を表現し、頭の周囲にも緑色のグラデーションがほどこされてスローモーションのボケ味のようなおもしろい効果があります。「新幹線」では、金色、銀色のクレヨンが使われていて、その華やかさは生で見ることでしか味わえない楽しみです。繊細な色の重なりが揺るがぬ表現に隠されており、注意深い観察と創作への探求心が感じられます。

 

 階段下から次の間を飾るのは若林 義輝さんの4作品。コピック(マーカーペン)で描かれた目もくらむような抽象画の世界です。濃い色から薄い色まで発色豊かで幅広い色合いが表現できるコピックを存分に使い、通常では考えられないような細かな模様を果てなく繰り返して描き込んでいます。描き込むパターンは、明度・彩度の近似と対立、画面分割、滲み出し、干渉などテクニックを駆使して全体と細部を巧みにコントロールし、見る者をいつまでも引き込む作りになっています。「無題」は、微小なパターンがどこまでも無限に続いて曼荼羅図のように構成されており、信じがたい美しさに驚かされます。「創造と命の歴史」は、一見して海に浮かぶ島々を連想させて想像力を掻き立てられます。幾何学的な形の羅列は謎を残していますが、色の織り成すリズムが心地良い快楽を与えてくれます。

 

  1階奥の間は国保 幸宏さんの5作品を展示しています。対象の興味ある部分を画面いっぱいに描くところは先の嶋津さんとも共通する特徴ですが、こちらは厚く塗ったクレヨンにアクリル絵の具も重ね、無造作で勢いのあるタッチが魅力になっています。「チェリスト」は、奏者の動きをとらえたものなのか、チェロを抱えながら顔が左右に振れ、弦を抑える手が上下し、弓が弦の上を滑る様子が描かれているように見えます。躍動感あふれる表現により、懸命に弾いている奏者の魅力を十二分に引き出しています。画面下方は、下地に背景の薄緑色と同じ色が塗り込められており、画面に奥行を与えています。「鍾馗」は、民家の玄関の屋根上に置かれた守り神さまのことと思いますが、ここで描かれているのは肌色の顔をして、悪鬼を踏みつけながら刀を振り上げた姿です。動きのある描写によって鍾馗さんの活気ある様子をとらえています。

 

2階、階段上に並べられているのが小寺 由理子さんの5作品。それぞれの絵は実在の都市や建物をモデルにしながら独特の想像力を羽ばたかせ、色とりどりの楽しい街並みに仕上がっています。「酒蔵」は、日本のどこかにある大きな木造の酒蔵を描いているようですが、扉や窓が四角くモザイク状にパネル化され、とりどりのきれいな色が一つずつ塗り替えられています。そのカラフルな窓がステンドグラスのようでもあり、絵本を眺めているような楽しさにあふれています。「サンクトペテルブルグ」も、川の両岸に拡がる街の姿を楽しく膨らませ、街の個性を生かしながらも、作者のイメージが自在に展開されています。単純化された樹々、橋、車などの表象、「酒蔵」と同様ステンドグラスのような窓がちりばめられた建物が何個もリズムよく配置され、作者オリジナルの鳥瞰図を散歩することができます。

 

2階の奥の間に並べられたのは吉田 浩志さんの4作品。キャプションを見るといずれも色鉛筆で描かれたようですが、にわかに信じがたいほどの色鮮やかさで、筆圧の力強さが印象に残ります。響き合う色によるイメージの再構築が見事。「パイロット」は飛行機のコクピットに乗り込んだ男性を描いていますが、空と思しき水色の濃淡、青みがかった影が金属にうつり込む様子、ピンク色のパネル状の部品などが、黄色を基調にして描き込んだ機体と組み合わり、リアルなようでいてポップでカッコよい絵に仕上がっています。「寿司屋1」は雑誌などでも紹介される京都の店を描いていますが、のれんの字の色に影が差して変化しているところ、重ねて停められた自転車のタイヤの影など、見えるものをフラットにとらえる正確な観察眼と、色を再構築する作者の力、手の確かさが組み合わさり、魅力のある画面が広がります。

今回の展示では、アトリエやっほぅ!!の作品制作や展示への周到な心配りを強く感じました。限られた条件の中で作者の希望をくみ取り、画材をできるかぎり惜しまず提供することや、また作品や作者についての紹介をしっかり伝えようとする顔写真やキャプションデータなど、日ごろから注意深く工夫されているのが随所に見てとれます。そのおかげもあって、今回も大変楽しく充実した展示となりました。ぜひ足を運んでみてください。