今回は、180名余の来館者に楽しんでもらえました。
10/22日~ 11/6 「大地と色彩」 社会福祉法人みずなぎ学園 みずなぎ鹿原学園 社会福祉法人 南山城学園
風がにわかに冷たくなり、秋の庭も風情深まるきりん舎。このたびは舞鶴市のみずなぎ学園と城陽市の南山城学園 円の同時展示を行いました。
1階手前の部屋と2階はみずなぎ学園、1階奥の部屋は南山城学園の展示です。今回の展示は出品側の要望により、各作品のタイトルや作者名等の紹介キャプションはありませんが、施設ごとの作品の指向性や制作にあたっての考え方を感じ取れる展示になっています。
1階手前にはみずなぎ学園の刺繍作品。これだけまとまった刺繍を見るのは、きりん舎でも珍しいパターンです。タペストリー状の大きい作品、小品、カボチャやテントウムシといったモチーフが一目みてわかるもの、幾何学パターンのデザインにかわいい花や動物を並べたもの、また抽象的な模様から色の波が紡ぎだされるようなものとさまざまなタイプの刺繍が並べられています。カボチャをモチーフにした作品は、立派なカボチャの実を画面いっぱいに配置。縫い目を重ね、巧みな色使いで野菜の色のグラデーションを表現していて見事です。形を単純化して取り出し、明確に見せる技に確かな腕を感じます。
かわいい子どものような人物二人が並んだ作品は、1cm程度の幅を保ちながら、刺繍糸をリボン状に繰り返し、色を表現しています。刺繍糸も太めですが、常に同じ調子で繰り返す縫い目によって、縫われていない部分の下地が輪郭として表れて力強い表現になります。繰り返し縫われた布にはしわが寄り、スタッフの方によって綿が入れられ立体的な仕上がりになりました。刺繍表現として誰にもまねできない個性を感じます。
赤い下地布に細い糸で小さく縫い付けられたぬいぐるみのような2匹の動物。熊と犬に見えました。2mm程度の繊細な縫い目で一見目立たないですが、数色の糸をよった刺繍糸を使っているのが鮮やかな下地布に際立ち、近寄って見るにつれて糸が浮き上がって全く違うイメージが広がります。この作品のように、いくつか違う色を一緒によって縫い込む作品がいくつか見られ、複雑な色合いを表現して効果を上げてみえました。縫い目の一目一目が下地を覆いつくすように縫い付けられ、圧倒的な波となってうねって見る人に迫ってきます。一糸にこめられた集中力の高さは鋭い緊張感をはらみ、他者としての存在を強く意識させます。
奥へ進むと、次の間には南山城学園の絵と陶の作品群が所せましと並んでいます。絵はクレヨンなどを使って画用紙や木板の表裏両面に描き殴った作品など、多彩なとりあわせで質量ともに見ごたえがあり、作り手の個性を強く感じさせる作品が集まっています。陶作品のいくつかは成形するというよりも、指で押してみる、ほじくり続ける、ごろごろと転がす…といった手の跡が如実に残る土の塊。手に伝わる感覚に没入し、それが知覚のほとんどすべてになりかわる時間を追う気持ちが理解できます。
また、単純なピースを繰り返しくっつけて作った作品も見受けられました。厚みのある円盤状にした塊を合わせてくっつけて、芋虫の立ち上がったような形に出来上がった作品は、接着面でしわが寄り、迫力ある存在感を放っています。短くちぎった塊を継いで塔状に仕上がった作品は構造的なおもしろさを感じさせます。円状の塊を集めた作品としては、「河原の賽の石をつむ」という表現がイメージとして浮かぶような作品や、鈴のような丸く不可思議な形態がころころと生れ出た作品もあり、こちらは安易な解釈を拒むところに魅力を感じました。
二階の展示は再びみずなぎ学園の展示になり、絵と陶の作品が並びます。水にうつる植物の影を思わせる作品は、水鏡のような静止した画面で清冽な印象。
また赤い山の峰々を思わせる作品では、くっきりと描いた輪郭が尾根と谷のように見え、メリハリのある画面構成の中にグラデーションにも見える陰影が幻惑的な印象を深く残します。その他の作品についてもいずれも潔い筆致で描かれ、力のこもった美しい画面で引き込まれました。
陶作品では、細長い壺状のオブジェと人物もしくは動物の頭像が並べられています。壺のオブジェはどれも丈が高く全長60~80cm程度ほど。ほとんどは手びねりならでは自然な形と質感で、上に伸びあがる形が並ぶことで空間におもしろい効果を与えています。壺のうちの一つは、真ん中に穴のあいたチップ状の薄片がびっしりと張り付き、焼成による茶灰色~墨色の濃淡の表情が変化して豊かな印象に仕上がっていました。また実物大の動物の頭像のような作品においては、作品への集中力や技術の高さを感じさせました。
今回の展示は、状況の異なる二つの施設から集められていましたが、作品の一つ一つは一言でくくれない個性がありました。名前のない作品についてレポートするのは、少ないヒントによすがを求めて作品に目をさまよわせる体験でしたが、名前にしばられないからこそ、その作品を生み出した個々の手の動きを追い、その手と対話する展示になっています。
※ 今回の展示会は、京都府「平成28年度地域アート展開催事業」の補助金を受けています。
秋の展覧会「大地と色彩」はじまります。
みずなぎ鹿原学園訪問
6/25~7/10 NPO法人スウィング 「オレたちひょうげん族」Not ART BRuT.
NPOスウィング 「オレたちひょうげん族」 からの「Not ART BRuT.」。きりん舎の庭の木々も生い茂り、蒸し暑くなったこの日、会場には大勢の人が訪れ、文字通り熱気ムンムンの一日となりました。絵画以外にも数多くの詩が展示され充実のボリューム、また作家のQさんとXLさんによる、似顔絵コーナーあり施設長の木ノ戸昌幸さんのトークあり、盛りだくさんの1日でした。
会場入ってすぐ目に入るのがXLさんの「川底の砂利」「さよならプーケット」「夜の東華菜館」「摩天楼を舞う」「ピサの優しい斜塔」「若冲の鶏」他7作品。メリハリきいた美しい配色、小気味良い形が繰り広げられた画面の構成が見事。線も塗りも安定感のあるタッチで、そこから生まれる楽しい画面は得難い個性のように思います。「タクシーを止めるシロクマ」は、強く塗りこめる中にも巧みに分割された面がそれぞれを引き立て、点描も重ねて丁寧なテクスチャーを作り、爪の鋭いシロクマもどこかユーモラスで頼もしく、似顔絵コーナーにいたXLさんの印象と重なりました。
Qさんの作品は「スイスセイソウコウクレーン車」「モアイ大魔神」「ムンクのおどり」「テトリスモアイ」他の6作品。一見してメカやロボットなど機械類に強い興味を持っているらしいことがわかります。似顔絵コーナーでは、依頼相手に好きな色、好きな数字、好きな家具は何かなどの質問をし、相手の顔にさまざまな色模様を取り付けた独創的な似顔絵で周囲を沸かせていました。「バンバン行くネコギター」「女の子カンムス」などでもモチーフを楽しくカラフルに塗り分け、超合金ロボみたいなギアを装着。多少の毒をにじませながら愛嬌で見せてくれます。
1階奥の間に飾られたAckeyの「男前な黒豚」「マリリン・モンロー」「口の中を噛んでしまったチンパンジー」「悩んでいるメンフクロウ」他6作品。描かれた題材が本人にとっての何を意味するのでしょうか、ありのまま差し出された作者と対象にある関係の謎の不思議。直裁な観察を手に伝えた作者にとっての現実が、見る者に引き起こす違和感の不思議。いや、もしかしたらそう見えるかもしれないと思い始める不思議。「湖面に映りそこなった富士山」「お尻を出し過ぎた女」を見ると、画面の分割方法には一種のパターンがあり、これも作者にとっての現実を憶測させる面白さがあります。
階段から廊下にかけて展示されているのがnacoさんの「獲物を狙うオオワシ」「笑うゴリラ」「吠える老チーター」他5作品。はっきりした色を思い切りよくぶつけて画面を再構成。力を込めて描く手は大胆に輪郭をつかんで造形の緊張を生みます。同時に獣の模様にも気を配り、美しい画面です。「闘う女達」は、ボクシングで撃ち合う女性二人の絵。身体を曲げ、必死と忘我の表情でなお相手に組みつく二人の闘士の一瞬をとらえており、茶色、オレンジ、赤紫といった強い色を調和させる力技は見事というほかなく、しなやかな絵の生命力に魅力を感じました。
2階の最後の間を締める矢田陸雄さんの展示は、「黒髪が日に灼ける」「向こう側を見ている」「スフィンクスの苛立ち」「こっちへ来いよ」他5作品。黒地の紙に輪郭を軽く描いて、面を塗りつぶしています。黒地を輪郭線として残し、2~3色という限られた色数で光の部分を塗りつぶすのでネガフィルムのような味わい。また、かすかな塗り残しが版画のような手触りをつくります。偶然に選ばれたモチーフも見る側の意識を揺さぶる効果を上げており、「国技館の熱狂」は前面に二人の力士のぶつかり合いが固まりとなり、背景に引いたトーンで描かれた行司のわずかな表情から奥行きが感じられて、それぞれのドラマを見せています。
増田政男さんの「Tバック」、辻井美沙さんの「能天気」、吉村千奈さん「おいしいよ ばんごはんより あさごはん」のような心に浮かんだことを率直に、つぶてを投げるように言葉を吐き出したテキスト作品。本人にとっても面白く、また人をも笑わせたいのか、おならやちょっとエッチなことが書いてあると、思わず笑ってしまい心に風穴を開けてくれます。普通の考えに愛嬌をまぶして作者の人となりを垣間見せる一方、Qさんの「こわい物」「障害者」「多すぎる」などでは不安、望み、閉塞感なども表され、世間の矛盾を鏡で映しだすような言葉が並べられていました。
テキストで一番展示の多かった向井久夫さんの作品は「おなら」「おなら」「おふろのたのしみ」「スケベ」「そら」「どこまでも」など。かわいいめだか同士のキスを見る「めだか」で作者の目が印象に残りました。かなえさんの「やさい」は、なんでも好き、食べると言いながら、最後はピーマン、アボカド、セロリと結局3つも嫌いと結ぶおもしろさ。西谷文孝さんは、それがどうしたとツッコまれそうになりつつ良かったなという展開の「雨もり」など、ほのぼのとした口調の中に言葉の背景にあった機敏に思いいたります。Gさんの「やさしくだきしめて」は、短くキャッチ―でカッコよかったです。
「表現は変わる。人も変わる。」と題したトークでは、スウィングの施設長である木ノ戸さんが、施設の立ち上げや概要紹介、カギとなったXLさんやQさんとの13年前の出会い、10周年を迎えた施設の変遷や、それぞれの人の個性など、日常のスナップ写真を交えて紹介。作業所の様子を淡々と示した写真は、創作活動や表現活動はスウィングの日常活動の積み重ねからうまれる一部だと示しているように思われました。また、それぞれの作者の絵と関わり始めから、現在に至る作風の変化もエピソードを加えて紹介。絵を描く行為に没頭し、表現も大胆さと注意深さを備えていく過程がよく伝わりました。活動会員が誰にもまねのできない作品を作るようになった展開に注目した木ノ戸さんの視線は、一方的な解釈を加えることなく、一人一人の個性と向き合うスウィングの目指しているところのありのままを知ってほしいという気持ちがよく表れているように思いました。
質疑応答では、どうしたらNPOスウィングのような運営ができるか、また「アールブリュット」という言葉に対するスタンスはどのようなものか、などの意見交換がありました。木ノ戸さんの話は、表現の根っこにあるのはその人の生活であり、スウィングはその人の魅力を引き出すよう心掛けながら、生活の困りごとがあれば関わっていくとのお話でした。また「アールブリュット」という言葉の流通は問題を隠蔽していると指摘し、「アウトサイダーアート」と隠さずに言うことで議論のきっかけを持つことができるということでした。スウィングが見出した「オレたちひょうげん族」は、その軽い響きで「Enjoy! Open!! Swing!!!」という理念のままに、今後も障害福祉の既成概念をヒョイっと飛び越えてくれるのではと思います。スウィングのみなさん、とても楽しい一日をありがとうございました。
あやべ市民新聞に紹介されました~NPO法人スウィング展覧会 Not ART BRuT.~
みずなぎ鹿原学園訪問
6月20日、京都府舞鶴市にある“みずなぎ鹿原学園”を訪ね、創作風景や作品ストックを親しく見学させて頂いた。力のある作品に興味をひかれ、秋の出展を依頼したところ、快諾して頂いた。
今秋は、南山城学園とみずなぎ鹿原学園の共同展示を企画しています。
3/5~ 3/20 信楽青年寮作品展 たちあがる形 にじみでる色
社会福祉法人しがらき会 信楽青年寮の作品制作の歴史は古く、1950年代に始められました。それぞれの作品は額装がなされ、各作家さんについての情報なども詳しく記されています。今回展示の作家はほぼ1940~50年代生まれがほとんどで、中に1967年生まれが一人という状況。多様で作品も多く、作家8人という異例の多さで展示を行いました。
ペンキの塗り固まった跡も生々しい藤野公一さんの「ネコ」、「たこ」2点、「さかな」の4作品。ともに一様に黒で塗り込め、赤や青の純色を使って丸い目を大きく描くと、そこだけがビー玉や信号機にも見えます。シンプルな形に塗り込められた体と手足には一定のパターンが見られ、作者自身の何かの確認をたどっているのかもしれません。飛沫は美しく、ペンキは黒い海のように画面の表面をたっぷりとたゆたっており、印刷物では決して見届けられない手の喜びが表れています。
伊藤喜彦さんの3作品は一見してわかる穴へのこだわり。こねた陶土に形態が生まれ、増殖し、連なり、鮮やかな赤や青磁の釉薬が落とされ、迫力が備わっています。どれも「鬼の面」と名付けられ、それぞれの穴は目、鼻、口かもしれませんが サンゴ?背骨?節足動物?のようでもあり、生にまつわる原初的なイメージも想起させます。その一方で、作者自身が自身の手から放たれた形態を発見し楽しんでいるのではないでしょうか。
きりん舎では初めて見る絵のタッチ。小林祥晃さんの「無題」2作品は、白い画面に色鉛筆が繊細な筆致で塗り重ねられ、オリジナリティを感じます。画面の端から中心に向かって、手首を支店に鉛筆を上下に動かし、リボン状の波形模様が現れます。リボンが現れる中での作者の発見が次のリボンを生み、さまざまな光が画面に満たされます。時折リボンから何らかの形に変化をとげる意思があり、作者の想像の翼がはばたくさまが見る人を引き寄せます。
絵本作家の田島征三さんとの出会いから生まれた「もりへさがしに」がボローニャ国際児童図書展のグラフィック賞推薦を受賞した村田清司さん。「無題」5作品は、いずれも目・口・輪郭といった人の笑顔を思わせる形が連なり、楽しい画面構成。クレヨンを使う村田さんの描きぶりは、ためらいのない直線に意思のコントロールを感じさせると同時にフリーハンドの柔らかな筆致が重なって稀有な表現です。色彩も、清々しいグレーやパステル調が静かに整い、オレンジや茶色といった強い色を引き立て、目に喜びを与えます。
西村己代治さんの陶板「無題」は3つで1組。西村さんが成形し、焼成にあたって職員が藁を置いて作った合作。四角い陶板に大小の穴がひたすら穿たれ、素焼の生(き)の色をベースに、藁灰の成す墨色、白色におもしろい効果が表れています。穴は規則正しく並んでいるようでいて、大小の点の構成、場所によって生じる疎密、点の流れと中断があり、作者をドライブするドットの力や美しさに空想を掻き立てられます。
大江正章さんの陶土による動物のフィギュア群「サル」、「ライオン」、「ゾウ」、「カバ」、「オウム」、「アルマジロ」、「キリン」、「ネコ」の8点。複雑な色の使い手で、派手さは無く、動物たちの再現に忠実でいながら、まるまるとしたフォルム、愛嬌ある表情、小さくつぶらな瞳、ぬいぐるみのように抱きしめたくなる愛らしさ。動物の形は粘土の塊のままで、実際は持ってみると大変重たい作品となっているのですが、作品からにじみ出る優しさは、見る人を幸せにします。
酒井清さんの「顔」4作品は、顔の形は平べったい形のほか、寸詰まりの砲弾風、ビールジョッキ風とバラエティがあって、角のような突起をはやした頭、輪なった目、舌を出した口、大きな耳など、とぼけた表情が楽しい。頬から出た突起は髭なのか、ドジョウのようにも見えてユーモラス。漫画のような表現なのに、表情が生き生きとして、よくよく見るとああこういう人いるかも!と思えてきます。陶の椅子になった2作品も展示され、てきりん舎の風景をにぎわせていました。
緑色を基調として厚く塗りこめられたクレヨン。それを掻き削り、ほのかな輪郭線や色彩が現れる。あるいは鮮やかなレモンイエローの画面にふわりと現れたカップ状(あるいは顔の輪郭か?)の何か。池田邦一さんの「無題」3作品は、塗り込められた画面から何か取り出そうとするところに謎があり魅力的。しかしながら緑色基調と見えていたものは、青、赤、黄、ピンク、その他の多色を下層に塗り重ねており、重たい海の水のように深い色が揺れています。もしかすると作者には本当にこのように世界が見えているのかもしれません。
信楽という地域ゆえ窯元との関係も深く、陶作品の充実が特長として表れていた今回の展示。小皿、器のほか手芸作品などのグッズも多く、また大江さんのミニ陶芸動物人形も充実していました。展示は3月20日まで。ぜひご覧ください。