3/30~ 4/14 静かな咆哮

三重県松阪市にあるまつさかチャレンジドプレイス希望の園https://kibounosono.info/goh/ からの作品が集まりました。

川上建次さん「トラの王」含む4点。絵の具のチューブから出した色を厚く塗り重ねるダイナミックな筆。ハイライトや影の色が繊細に重なり、輝きと深みを増しています。

早川拓馬さん「Cafe Girl」含む7点。鉄道と人物を融合させた新しい風景。造形の輪郭線をつたって、世界の鉄道車体が飛び交います。作者の思い出も画面に込められています。

ポンティ新平さん、フィギュア11点。色とりどりで奇妙な張り子人形は、すべて作者が考えた「ポピロン族」です。「パミラシュ」「アレンチャ」など一体ずつ名前があります。

岡部志士さん「Scratch Works Yay! Yay! Yay! NO.11」含む6点。心地よい絵は結果として残った抜け殻。作者の執着は画面のクレヨンを削り集めた「コロイチ」のほうなのです。

国際交流など幅広い活動に力をそそいでいる希望の園の軌跡は、ドイツで銅版画職人に教わって制作したという早川さんの作品「ドイツの親子」などでも垣間見えました。

この日はアーティストの早川さんと希望の園の理事・園長である村林真哉さんが来訪し、ギャラリートークに出演しました。

 

川上建次さん「飛行機」「アンソンさん」「丸出しのライオン」「赤い兄弟」。

興味のある対象を画面いっぱいに描く川上さんの絵。ブラシに厚くとった絵の具の重量が感じられる画面ですが、不思議と透明な光にあふれています。赤色を好んで使うということで、今回の作品群も赤を基調にしたものが多いですが、赤以外の色が効果的に挿し挟まれることで、より強い主張、暖かい光の広がり、湖面のように深く静かな影など見れば見るほど引き込まれます。

早川拓馬さん「ドイツの女」「地下の日曜日」「The Family Museum」「Galiton Idol」「KMT48通過線スクランブル」。

銅版画展示もあり多才ですが、とりわけ鉄道趣味が風景や人物像を構成する細片となり、細胞のようにまとまっていく作品群が圧巻です。鉄道はあらゆる角度から自在に描かれ、立体的な空間認知の高さと、人物や肉付けや風景の構成に巧みに利用する才能も示しています。大勢の人物の瞳に白目が描き加えられのも特徴的で、こちらを見返す目の光から作者の思い出が繰り返し再生されているように思います。

 

ポンティ新平さん「ポピロン族のダンゲシ」「ポピロン族のパミラシュ」「ポピロン族のツイアスキャ」「ポピロン族のミノーニャ」「ポピロン族の仮面」「ポピロン族のアレンチャ」「ポピロン族のアヴィゴシュ」「ポピロン族のピワヨヨ」「ポピロン族のカマーショ」「ポピロン族のグギヤヤ」「ポピロン族のモヂーシャ」。

すべてポンティさんが考えだした「妖精」で、紙に彩色、ニスでつや出しした張り子で作られています。体の色も形も一体ずつ違っていて個性的、色とりどりの模様をあしらった服を着てにぎやか。どことなく可笑しみにあふれ、作者がどんなふうにポピロン族と暮らしているのか気になる存在です。

 

岡部志士さん「Scratch Works Yay!  NO.7」「ナイテバ コーヒー」「Scratch Works No.21」「Scratch Works No.20」「Hoo! Hey!」と、灰色に近いクレヨンの塊「コロイチ」。

美しい配色がパレットのような抽象画が優しく光を放って展示空間を照らす足元に、コロイチが転がっています。これは、作者が絵より遥かに大事にしているもので、千枚どおしのような針で画面を削って取ったクレヨンやパステルのカスが集められたものです。コロイチはもとの画材のさまざまな色が交じり合いながら、濁った灰色の塊、あるものは親指大となり、あるものは手のひら大に成長し、存在感を放っています。

 

トークショーでは村林さんが希望の園の成り立ちや、音楽制作、演劇の大根一座、地域通貨ループなど幅広い円の活動を紹介してくれました。国際規模のアート交流を盛んで、先に述べたドイツフランクフルトでの美術展や制作のほか、これまで中国無錫市濱湖区での各種プロジェクト、スペインバレンシアでの訪問・制作、ベトナムホイヤンフェスティバルの参加などが世界の人々・アーティストとつながったということでした。

また41名の契約アーティストと作品やエピソードを紹介。作品とともにそれぞれの個性と制作中の態度などを楽しく話してくれました。また地元小学生との交流も社会活動の一環として継続しており、小学生とのコミュニケーションを年間50回以上行っているということです。トークの間に紹介された写真では、子どもたちが希望の園のメンバーを囲んで何かを教わったり笑いあっていました。こうしたお話をうかがって、まつさかチャレンジドプレイス希望の園では、自由な個性を尊重し、あらゆる可能性を芸術として見出し、互いを知り合う中で共生しあう環境が作られていると感じました。