11/23~12/8 若狭ものづくり美学舎きらりアート三人展

今回のきりん舎は、福井県在住者による芸術作品を対象とする「きらりアート展」で活躍している田中鉄也さん、田中さかえさん、武田千香さんに注目してお届けします。第一回きらりアート展を開催し、以来同展にたずさわっておられる若狭ものづくり美学舎(特定非営利活動法人若狭美&Bネット)さんの多大なるご協力をいただきすてきな作品が集まりました。田中鉄也さんは巧みな構成と色使いで視覚的に訴える独自の世界を展開、田中さかえさんは塗り箸などの端材を積み上げて夢で見たような風景を立体的に表現、武田千春さんは優しく心浮き立つような情景を描いています。

ピンオークの葉が色づいて秋の深まりを感じさせるきりん舎の庭。玄関の前では、田中鉄也さんの作品群が並んでいました。「アマゾンの怪魚たち」「コレクターのコレクション」含む6点。名状しがたい不思議な模様やオブジェが巧みに組み合わされた画面。輪郭線をとらず、ややかすれた絵筆や原色にたよらない色使いで、ほのぼのした中に複雑な陰影を帯びています。アラベスク模様や民俗芸術的なパターンを上手にとりいれており、おそらく目にしたものの記憶から細かいディテールを細かく再構築できる人なのではないかと思いました。「パラレル銀河」では、宇宙に存在する多様な銀河の存在を描いたものと思いますが、一つ一つが膜に包まれ、多くの事象を揺籃する細胞液のようなものがほの暗く灯ったかのようでした。「異次元の来訪者」は上に伸びて何かを求める何本もの青い手、手のひらに描かれた目、蜘蛛の糸のように精緻な線、上部に浮かぶ謎のオブジェなど呪術的な雰囲気がうまく表現されています。

奥の間にあるのは田中さかえさんの9つの作品群ですが、いずれもタイトル「作品」あるいは無題です。コルクボードのような台の上に、箸などに加工され廃棄された端材やウッドチップなどの素材を詰めて接着し、家や町のようなオブジェを作っています。チップの形はいろんな形状があるのでキッチリ詰めることはできませんが、工夫を凝らして形状を利用しようとしています。寄せ木タイルのように床を埋め込み、壁を積み上げていると思えば入り口らしき隙間が設けられていたり、庭の垣根と建物の壁に違いが見られたり、門の上に三角屋根が設けられたり、小間が設けられていたり、道を分岐させたりアーケードをかけたり、見飽きません。作品ごとに追求するモチーフがあり、次の試行につながる表現も見られます。いくつかの作品は壁に吊っていますが、据え置いて彼女が作っているときの視点を疑似体験するように斜めから見下ろすと、制作意図がより楽しくわかるように思いました。

二階には武田千香さんの展示になり、「雨のあじさい公園」「雪国のサファリ」などを含む7点作品群が並んでいます。紙や木のボードにクーピーペンシルやクレパスを使って描いています。全般的に筆跡は薄く下地の肌理が半ば透けて見えますが淡い情景となって現れます。「伏見稲荷の初もう出」で、伏見稲荷の鳥居を画面いっぱいに大きく描き、屋台を並べ、カラフルで賑やか。一方で足元の神社の石畳の花崗岩の切石としてきっちり観察していることもわかります。「白夜の野原」では、星のまたたく空に向かって伸びるススキ野原にトンボや赤い花など秋の風物を取り合わせています。明るい群青色の夜空に黄色の星が散りばめられ、全体から受ける色の調和が心地よく、気持ちの良い季節のきらめきを感じます。木目が白く浮きだしている下地も透明な空気感と優しい世界観の表現に効果をあげているのではないでしょうか。

今回の展示にいらした方は、きりん舎にほのかに香るいい匂いと心地の良い音に気がつかれたかもしれません。去年秋の「秋にであう」に引き続き、今年も緑と香りの学校Tiara代表の山本真理さんのブレンドしたアロマオイルがギャラリー内部を包みます。音楽は今年夏にアコースティックギターライブを行った岸田ごんべさんの作品。秋の深まりとともに相互のコラボレーションをお楽しみください。