「ワークセンターとよなか」のにぎやかな看板が庭に置かれ、いつもと違う雰囲気のきりん舎。ギャラリーの中も鮮やかな作品にあふれています。3月8日はワークスセンターとよなかから、展示作品の作者と職員の方々合わせて10名がきりん舎を訪れて大賑わいになりました。
庭のあちこちに出現した陶器の「ウサギとカメ」たち。竹林 亨さんの作品は、両掌におさまるサイズで、釉薬をかけた甲羅はつるつると丸くてかわいらしい。多数の亀と1匹の兎が、ともに庭に棲む生きもののようです。原料は猪名川でとれた粘土。夕暮れの猪名川で撮影されたカメの写真の展示もあり、カメの視点が水面に写っています。
中森 昇さんは驚異的なスピードで、午前中から昼にかけて絵を描き、午後のうちに陶オブジェの形を作ってしまいます。「花」「花の顔 顔と手」などの絵は、何度も塗り込まれたクレヨンが鮮やか。陶オブジェと合わせて繰り返し現れるモチーフは、なんらかのイメージの連関に意味が込められていると感じます。
山本 陽子さんの「海と太陽」(写真左)はリユースされた紙筒に紙を貼りつけ、その上から直接彩色した作品。明るいイメージを描きたかったという作者のイメージどおり、ありとあらゆる存在が生を謳歌するようにいきいきと描かれています。素材に選んだ円筒というアイデアが、表現したいテーマによく合っています。(写真右は宮崎 博明さんの「リメイクギター」)
吉田 有希さんの作品「妖怪ウォッチ」「ミヤネ屋」「ポケモンネットTV」は、毎日の新聞テレビ欄から気になった番組のコピー全てをキャンバスに書き写したもの。四角い白地のキャンバスに、律儀な様子で記録されたテキストを一つ一つ読むうちに、日常の「あわい」が作者という存在に刻まれる瞬間に立ち会う感覚を覚えます。
「年越しPARTY 2013→2014」「リメイクギター」「3人目よ」など、身の回りのあらゆる「面」をキャンバスにしてしまう宮崎 博明さんの作品。緻密ながら自由な筆さばきや、知的な読み替え作業から生まれる色彩と模様からは優しい気持ちやユーモアを感じさせ、それらが一体となって画面が移り替わっていく様子は見事の一言に尽きます。
わら半紙に描いた「お花」や、段ボールの地を残し、白く塗った背景に浮かび上がる3輪の赤い「大きなお花」。市賀 妙子さんが描いた美しい花は、他者と異なる世界観があります。余白が花を引きたて、優しげで孤高の存在を凛として見せています。作者の花への語りかけは、静かに耳を澄まさないと聞き逃してしまうようです。
大蔵 暢弘さんの記録は、タイポグラフィへの偏愛と、技術の高さがわかる展示。「ロッテリア」「笑点」「JJ」といった町のサイン、テレビ番組や雑誌のロゴなど、あらゆる記号を記憶だけで忠実に粘土で再現し、出来た途端に潰してしまうので、職員が写真や動画で撮影。作者を突き動かす謎と、リセットまでの一連の動作は不思議な共感を覚えます。
同様に映像記録で展示された溝渕 康信さんの「車」。数えきれない絵には、概ね四角い輪郭線の中に横の棒線が色とりどりに何本も走っています。線が力強い日もあれば、繊細な日もあり、職員の方が編集した数秒単位のコマ送りにより、刻々と変わる線と色が新たな表現となり、作品テーマにスピード感を与えているのも面白く感じられました。
人一倍お洒落でかっこいい着こなしが印象的だった井上 勇さん。琵琶湖で蒸気船ミシガンに乗った記憶をもとに描いた「ミシガン」が展示されています。段ボールにクレヨンで、蒸気船らしく後部の赤い外輪を備えた白い船体。のびのびとした筆致の心地よさは、グッズの絵付け皿のほうでも存分に表れていました。
今回の展示では、Tシャツや陶器皿などの小物グッズの販売コーナーも充実しており、センター利用者と職員が二人三脚となって、楽しく取り組んでおられる様子が伝わりました。