社会福祉法人しがらき会 信楽青年寮の作品制作の歴史は古く、1950年代に始められました。それぞれの作品は額装がなされ、各作家さんについての情報なども詳しく記されています。今回展示の作家はほぼ1940~50年代生まれがほとんどで、中に1967年生まれが一人という状況。多様で作品も多く、作家8人という異例の多さで展示を行いました。
ペンキの塗り固まった跡も生々しい藤野公一さんの「ネコ」、「たこ」2点、「さかな」の4作品。ともに一様に黒で塗り込め、赤や青の純色を使って丸い目を大きく描くと、そこだけがビー玉や信号機にも見えます。シンプルな形に塗り込められた体と手足には一定のパターンが見られ、作者自身の何かの確認をたどっているのかもしれません。飛沫は美しく、ペンキは黒い海のように画面の表面をたっぷりとたゆたっており、印刷物では決して見届けられない手の喜びが表れています。
伊藤喜彦さんの3作品は一見してわかる穴へのこだわり。こねた陶土に形態が生まれ、増殖し、連なり、鮮やかな赤や青磁の釉薬が落とされ、迫力が備わっています。どれも「鬼の面」と名付けられ、それぞれの穴は目、鼻、口かもしれませんが サンゴ?背骨?節足動物?のようでもあり、生にまつわる原初的なイメージも想起させます。その一方で、作者自身が自身の手から放たれた形態を発見し楽しんでいるのではないでしょうか。
きりん舎では初めて見る絵のタッチ。小林祥晃さんの「無題」2作品は、白い画面に色鉛筆が繊細な筆致で塗り重ねられ、オリジナリティを感じます。画面の端から中心に向かって、手首を支店に鉛筆を上下に動かし、リボン状の波形模様が現れます。リボンが現れる中での作者の発見が次のリボンを生み、さまざまな光が画面に満たされます。時折リボンから何らかの形に変化をとげる意思があり、作者の想像の翼がはばたくさまが見る人を引き寄せます。
絵本作家の田島征三さんとの出会いから生まれた「もりへさがしに」がボローニャ国際児童図書展のグラフィック賞推薦を受賞した村田清司さん。「無題」5作品は、いずれも目・口・輪郭といった人の笑顔を思わせる形が連なり、楽しい画面構成。クレヨンを使う村田さんの描きぶりは、ためらいのない直線に意思のコントロールを感じさせると同時にフリーハンドの柔らかな筆致が重なって稀有な表現です。色彩も、清々しいグレーやパステル調が静かに整い、オレンジや茶色といった強い色を引き立て、目に喜びを与えます。
西村己代治さんの陶板「無題」は3つで1組。西村さんが成形し、焼成にあたって職員が藁を置いて作った合作。四角い陶板に大小の穴がひたすら穿たれ、素焼の生(き)の色をベースに、藁灰の成す墨色、白色におもしろい効果が表れています。穴は規則正しく並んでいるようでいて、大小の点の構成、場所によって生じる疎密、点の流れと中断があり、作者をドライブするドットの力や美しさに空想を掻き立てられます。
大江正章さんの陶土による動物のフィギュア群「サル」、「ライオン」、「ゾウ」、「カバ」、「オウム」、「アルマジロ」、「キリン」、「ネコ」の8点。複雑な色の使い手で、派手さは無く、動物たちの再現に忠実でいながら、まるまるとしたフォルム、愛嬌ある表情、小さくつぶらな瞳、ぬいぐるみのように抱きしめたくなる愛らしさ。動物の形は粘土の塊のままで、実際は持ってみると大変重たい作品となっているのですが、作品からにじみ出る優しさは、見る人を幸せにします。
酒井清さんの「顔」4作品は、顔の形は平べったい形のほか、寸詰まりの砲弾風、ビールジョッキ風とバラエティがあって、角のような突起をはやした頭、輪なった目、舌を出した口、大きな耳など、とぼけた表情が楽しい。頬から出た突起は髭なのか、ドジョウのようにも見えてユーモラス。漫画のような表現なのに、表情が生き生きとして、よくよく見るとああこういう人いるかも!と思えてきます。陶の椅子になった2作品も展示され、てきりん舎の風景をにぎわせていました。
緑色を基調として厚く塗りこめられたクレヨン。それを掻き削り、ほのかな輪郭線や色彩が現れる。あるいは鮮やかなレモンイエローの画面にふわりと現れたカップ状(あるいは顔の輪郭か?)の何か。池田邦一さんの「無題」3作品は、塗り込められた画面から何か取り出そうとするところに謎があり魅力的。しかしながら緑色基調と見えていたものは、青、赤、黄、ピンク、その他の多色を下層に塗り重ねており、重たい海の水のように深い色が揺れています。もしかすると作者には本当にこのように世界が見えているのかもしれません。
信楽という地域ゆえ窯元との関係も深く、陶作品の充実が特長として表れていた今回の展示。小皿、器のほか手芸作品などのグッズも多く、また大江さんのミニ陶芸動物人形も充実していました。展示は3月20日まで。ぜひご覧ください。