日別アーカイブ: 2017年6月19日

6/17〜7/2 わき出る思い〜三つの形

空梅雨の続く6月の空はさわやかで、庭木をすっきり剪定したきりん舎も涼し気です。今回の展示は敦賀市立やまびこ園の絵画、同市のワークサポート陽だまりのさをり織と糸、小浜在住の「詩音くん」と「夏美ちゃん」の書の作品が見られます。

1階の玄関と奥はやまびこ園の絵画作品。メンバーによる合同作品「いろんな気持ち」がまず目に入ります。複数のメンバーが手掛けた色とりどりの色(形)はそれぞれ主張しながらも見事に溶け合い、白いキャンバスの上で飛び跳ね、垂れ下がり、描き殴られ、混色され、抽象的な形となっています。バランスよく余白を保ち、一目見るなり美しさが引き立っている画面です。

山岸康憲さんの「名前はねえ」は、透けていく色の重なりが繊細な陰影を帯びて優しい効果を生み出しており、タイトルはぶっきらぼうですが、画面は雨にけぶっているような雰囲気を感じさせます。一方同じ山岸さんですが、「僕の生活」になるとキャンバスに展開される表象とタイトルの間に推し量ることのできない謎が横たわっており、作者の存在が空を切るように立ち上がります。山本千晴さんの「無題」2題の1点は、赤とピンクを塗りこめた大胆な構成、もう1点は赤とピンクに空色や群青色を合わせています。同園では同じキャンバスを2度3度と使って絵を新たに描き直しているということで、山本さんの絵も、厚く塗られた絵の具が経年変化ではがれ、その下から、過去に塗られた色がのぞいています。必ずしも作者の意図とはいえませんがそうした経緯も含めた作品鑑賞になります。作者不詳の「無題」はえび茶色がキャンバス一面を覆うように厚く塗り込められ圧倒的な迫力。

坂口裕さんの「野坂山の木々」は小さくちぎった色紙の紙片を貼り付けながら、大きめの点描を重ねるという独特の表現。ピンク、水色、オレンジ、黄色などの絵の具と緑色などの紙片を基調として全体が同じトーンで覆われていますが、重ねられたタッチの向こうに風景が封じ込められ美しい情景が広がっているように見えます。武田明子さんの「無題」は、何色かの色を大きく塗り分けた画面ですが、こちらもまたはがれた絵の具から過去に描いた画面が露出しており、一種のイメージになっています。画面の左手下方に張り付けられた紙片がなにがしかの意思を感じさせ、印象に残ります。鳫子はつゑさんの「顔と手」は、鮮やかで軽快な色使い、引き締まった画面の構成、大らかな手筋を感じさせる筆遣いが魅力的です。

川上大樹さんは「寿限無」と「いのちの花を」ですばらしい色彩と構成のバランス感覚を発揮しており、一目見るなり目が喜ぶ楽しさや幸せを掴み出しています。堂田隆宏さんの「お仕事がんばっている僕」は、ユーモアを感じさせるタイトルで画面を見ているうちに、赤色をベースとしてぐるぐると描き殴った筆のタッチに引き込まれ、説得力を帯びて作者の世界を物語ります。岩谷俶子さんの「もみじ、ひかり、秋のゆう」、タイトルと同じ文字が書かれていますが、朱の光のような燃える色がそれを照らしているようです。無造作な刷毛目の跡が抽象化を強めています。

ワークサポート陽だまりからは、さをり織とその制作過程で生まれる制作物などが展示されています。陽だまり43人とクレジットされているさをり織の「無題」、及び上山花梨さんのさをり織2点は、ストールのように長く織られたテキスタイル作品。同じ色の木綿糸を複数本ずつセットし、時折色を変えて縦に通したものが織の基調色となります。横方向は木綿にこだわらずさまざまな仕上げを施した糸を織り込んでいます。縦横の糸の組み合わせの変化で鮮やかな色合いが展開され、たわませたり添わせたりする中で立体的な動きが生まれています。紡ぎ糸の束2点は、作業の様子を伝えようと意図して展示したもので、きりん舎担当者によると糸を巻きとる仕草も各々の個性があっておもしろかったと言います。

山崎和彦さんの4点は、布の残り糸の始末で生まれた糸くずの山。丸まった糸が光沢を放ってふわりとして繊細な細工に見えてきます。他の作業者の方々は引き抜いた糸を長いままにしているのですが、山崎さんだけはそれを丸めておくそうです。工程的には意味のない行為ですが、そんな個人のありようが展示になっています。岩佐明子さんの「ボタン」は、正方形のキャンバスに色も形もとりどりのボタンを気ままに貼り付けたパネル状の作品。キャンバスにさらりと塗られた淡い色彩がボタンを引き立たせる効果をあげています。

2階では「詩音くん」と「夏美ちゃん」による、小学生時代に制作した書の展示。詩音くんは6点、夏美ちゃんは4点で作品タイトルはありません。紙に書かれた文字がそのまま意味を示す書ですが、一見して読める字もあればそうでない字もあり、解読しながら筆触に接するうちに、紙に落とされた黒が立ち上がります。詩音くんの書は、文字の大きさや配置、墨の含ませ具合、筆のスピードに安定したバランス感覚を備えており、「いいの いいの」「風ニモマケズ」「雨ニモマケズ」といった作品に見られるカスレやにじみ、ふくませた墨のたまりが情景を物語り、かつ文字という記号を逸脱した景色になっています。夏美ちゃんの書は言葉を記す心の先立つさまが筆跡に現れているように見えます。仲の良かった友だちが引っ越してふさいだ気持ちを表した「ゆきのさん…」の書では、心がおもむくままに形となってほとばしり、余韻を残しながら折り合いをつけていく気持ちを紙にとどめています。