少し肌寒くなってきた11月後半、きりん舎のピンオークやニシキギも色づいています。
あとりえすずかけの展示は2012年6月以来ほぼ10年ぶりの2度目。オリジナルな表現力、見る者を揺さぶる作品がたくさん集まりました。
表玄関の間に並べられた伊東鉄也さんの作品。「いろんなかたち」と名付けられた12点が展示されていました。 丸、楕円、四角、雫、星やクローバーや壺などの幾何学模様、4つ足動物や家電製品のような象形などを影絵のように塗りつぶして背景からシンプルに浮き上がらせ、パターン模様として一種のリズムのある画面を生み出しています。ポスカ、色鉛筆、ボール紙、木片、板、木製品端材など、選択した画材と表現様式がモダンにマッチして、おしゃれです。ポスカと色鉛筆の作品双方とも素敵ですが、ポスカのほうはメリハリが効いて鮮烈で、一方、色鉛筆は柔らかで均一な塗りにほのかな温かさがあり、配色もセンスの良さが見てとれました。
通路の間では宿間谷憲江さんの11作品。こちらは「ブドウ」や「ケーキ」といったタイトルがバラエティ豊かで、作品のユーモアも表現しています。刺繍や裁縫が得意で、布に何か思うものを縫い付けています。「イチゴのTシャツ」はTシャツに様々な布を重ねて縫い付けたもので、布が布に重なり、折りたたまれたりしわを作ったり、切れ端がフリンジになったり、すごい熱量です。おそらくテレビや日常で目に入る文字も気になるらしく、「阪急宝塚線摂津市」では「雲雀ヶ丘花屋敷」や「売布」といった阪急宝塚線の各駅名を一つ一つ刺繍していて、作者を取り巻く世界が縫い取られていることが物語のように見る者に伝えます。
奥の間は、恒田敦史さんの「花」シリーズの作品5点。描かれているものは抽象的ですが、およそ対に並べられたN字型のなんらかの形と、それ以外の空白の画面を2~3つに大きく分割した背景、という構成が共通しています。水彩紙に描かれた油性クレヨンと水性絵の具のはじきを利用しており、塗り重ねられたクレヨンは、近づいてよく見るとぱっと見た印象よりも、かなりいろんな色合いが込められていることがわかります。意外な色合わせが表現の深さにつながり、また背景の塗りの順番も時折レイヤーの前後をひっくりかえすような工夫があって発見があります。
2階は竹村幸恵さんの「たらり」シリーズ10点が並びます。絵の具をたっぷり含んだ大きなブラシを立て掛けた紙に勢いよくぶつけます。一種の吹き流しの手法といえるでしょうか。したたり落ちる雫にはかまわず、また違う色のブラシをもって紙にぶつ。絵の具の色は層を成し、ところどころマーブル模様に混ざり、液が下に落ちていくときにより新しい色が直前の色もろとも押し流れていくさまが物理現象のおもしろさを感じさせます。絵の具の衝撃と落下の運動、ぶつかり合う色と色の対比や調和、といったものを楽しんでいるのでしょう。制作過程の動画を見ると、アクリル絵の具の大きな缶を、ほぼ胸あたりの高さに持ち、ブラシの絵の具を紙に飛ばすごとに、その流体を見届けて次の目標点を探している作者に、飽くなき好奇心を感じました。