2月27日、近江八幡のボーダレスアートFESTを見学しました。
NOMA美術館を起点に町屋を活用した展示スペースを梯子しているとたちまち2時間半を消費。今回は、陶などの立体が少なかったように思う。
その一方で、創作風景を投射機をつかった映像で紹介しているのが新鮮だった。
山の木々に冬の訪れを感じる晩秋、きりん舎の庭のピンオークもまもなく落葉を迎えようとしています。今回は神戸市長田区にある片山工房の作品を紹介します。神戸市長田区にある片山工房。他のギャラリーに作品をゆだねた展示は初の試みです。
片山工房公式ページ(http://studio.kobe-katayama.com/)
正面を飾る「赤と黒」は、澤田隆司(たかし)さんの作品。横140cm・縦110cmほどのキャンバスに大きく投げ出した黒のペンキを赤のペンキが上書きし、それらの塊から目盛のような線がリズムを打つ。赤の裂け目から黒がのぞく際(きわ)も美しい。身体障害のある澤田さんは、足の下に置いた画面にペンキ缶を蹴って倒す一方、画面を支えるスタッフが澤田さんに尋ねて画面を傾け、流れるペンキを定着させるという方法で制作している。他の出品のうち2作は画用紙、他の3作は3mほどの赤く細長い布。布はペンキが乾くにつれて縮み、その柔らかな風合いと固まったペンキの対比がおもしろく感じられました。
松浦愛夢(まなむ)さんの作品は、和紙に乗せた水彩のにじみの優しい画面が特徴的。一方、画面構成にはあっと言わせる驚きと愛嬌があります。「ネギま」と「南あわじ神社」は、大きく配置した色が表すものとタイトルの関係が憶測を呼んでユーモラス。「コウノトリ」や、グレー同系色に赤い射し色が小気味よく美しい「イブサンローランのバックはやさしい色合い」など合わせて見ているうちに、色とパターンの戯れが見ている側に喜びをもたらし、水彩のしずくが垂れる様子が、作者の絵との向き合い方を浮かび上がらせます。
上杉結喜子さんの作品は、形と色が反復から変奏へ自律的に作動し、作者自身を突き動かしているよう。3作の「無題」では、マジックで重ねた線と色が、とっかかりとなる決まりごとから冒険に踏み出し、やがてうねって上昇していくように見えます。白い画面にモノクロのエンピツだけで展開した「向日葵」では、ヒマワリが解体され、再構成されます。「たのしい」は、いくつかの決まった色をパズルのピースのように塗り分けて並べた作品。このような画面ができあがるのはなぜなのか、作者もその不思議を楽しんでいるようです。
新城孝彦さんの作品、「無題」4作は、自分の手を直接ペンキに浸して、画面にペンキを細く長く垂らしたり、塗りたくったりして出来ています。今回展示の作者5 人を紹介するスライドショーを見ると、新城さんは、手をペンキに染め、キャンバスを前に微笑み、にこにこ笑っていたのが印象的でした。楽しげな表情から、 指から落ちて伸びたペンキの軌跡の美しさや感触にまつわる喜び、画面に広がるイメージを楽しんでいる様子が伝わります。
展示を見に来られた中丹支援学校に勤務する教員の方。きりん舎には第1回の展示からほぼ毎回見に来られ、障害者の可能性に刺激を受けているとのこと。いずれはきりん舎で支援学校の作品展を開きたいと、現在、企画を進行中です。
また、この日はアール・ブリュットの専門家として活躍される井上多枝子さんも来訪され、きりん舎の民家のようなたたずまいを、落ち着いた空間で作品を楽しめると評価されました。井上さんは、かつて片山工房で、作者の制作にあたっての緊張感やイメージが現れようとする瞬間の喜びを、サポートスタッフも一体となって分かち合う様子を目の当たりにしたと言います。この時にアール・ブリュットの自由な展開に思い至るきっかけが得られたと語ってくれました。
今回の展示にあたって、きりん舎が片山工房を訪れたところ、一日では見切れなほど数多くの作品が保管されていました。今回限りの展示ではなく、また次回も企画したいという希望をお伝えしまたので、近いうちにまたの機会があることを期待したいところです。
今夏の美術館探訪記
8月2日と3日、東京都美術館の「楽園としての芸術」展と、川崎市岡本太郎美術館の「岡本太郎とアール・ブリュット—生の芸術の地平へ…何だ、これは!」を訪ねた。
前者では「アトリエ・エレマン・プレザン」(三重、東京)と「しょうぶ学園」(鹿児島)の作品が展示されている。絵もさることながら、長い時間をかけて創り込んだ“縫い”作品には今回も圧倒された。以前京都造形芸術大学でも“縫い”作品を観賞したが、展示空間の違いもあってか展示方法がやや違っているように思え、そのことから作品の見え方にも違いがあったように思う。
後者の方では、岡本太郎の絵画や彫刻作品を中心としてH・ルソーやC・ボンボアさらにJ・デビュッヘなどの作品、あるいはアフリカの彫刻などと共に、「やまなみ工房」(滋賀)と「アトリエ・コーナス」(大阪)そして「工房集」(埼玉)の作品が共同展示してあった。「工房集」の作品には、今回が初めての出会であり新鮮な印象をうけた。
ここでは、「何だ、これは!」と銘打って、評価の定まったインサイダー・アートとアール・ブリュットの作品を共同で展示し、既知の観賞態度や芸術の在り方を問い直している野心的な企画に強い共感を持ち問題意識の触発を受けた。
展示の仕方によるとも思えないが、岡本太郎の作品に以前と比べてより力強い感動を得た。自分の側の観賞の仕方が変わってきたようにも思えるが、なんだか落ち着かない気持ちを引きずって帰途についた。
ついでに、美術館にほど近い旧岩崎邸とハスの咲き誇る不忍池を回ってみた。久しぶりに訪ねた不忍池のハスは盛りを過ぎていたがまだ一面に緑の葉を密生させ、ところどころに大ぶりの花をのせていた。
旧岩崎邸は丁寧に手入れされていて、今も沢山の観光客が訪れている。主庭はやや荒れているが、和建築に付随した飾り蹲踞などは丁寧に手入れされていて見ごたえがあった。庭木のほとんどがモッコクだったが、これは岩崎翁の好みだったのかなぁ。また、幾つかの石造美術作品も残されている。
…以上は、余暇のおすそ分けでした。
塩見
今回のきりん舎は、大阪府泉佐野市の「YELLOW」から、独自の個性からなる8人29点の絵画を紹介します。色とりどり思い思いの線を描きながら、それぞれの好みやこだわりをうかがわせる幻想やユーモア。YELLOWから何人かのメンバーの来訪もあり、彼らの作品をモチーフにした絵はがき、Tシャツなどオリジナルグッズは訪れる人たちに好評で、みなそれぞれ観賞を楽しみました。YELLOW公式ページ(http://www.yellow.ne.jp/)
キリン舎に入った正面に展示されているのは平野 喜靖さんの作品。モチーフのデフォルメが造形的な効果をあげています。幾何学的なパターンの背景に力強い造形からなる大胆な画面構成。よく見ればマーカーを自在に使いこなし、緻密なタッチを繰り返して完成にたどりついていることがわかります。
続く穴瀬 生司さんの作品は、まず殴り書きのようなマーカーの線に目が行きます。画用紙とマーカーの接点から線となる動きに作者は集中しているでしょうか。それらの線が集まり、離れていき、やがて遠くから見ると色の洪水に漂うような感覚が生まれます。
YOUさんの作品は美味しそうな食べ物や、かっこいい自動車とそれに合わせて考案した若い男性キャラクターたち。描線に迷いがなく、色使いもポップで快活な魅力を感じました。確かな観察を明確に表現する中にユーモアセンスもうかがわせます。
1階奥に展示された有田京子さんの作品は、点描を描きいれたパターンをパッチ―ワークのようにつないで作る画面。力のある画面構成と色に対する驚くべき鋭敏な感覚が備わっています。落ち着きと優しさが感じられる絵から、心地よい風景が広がります。
続いて階段を上がると、大輔さんの作品。温度計、計算機、ものを測る道具や尺度、数字の形象を端正に並べて構成した画面はそれ自体が精巧な機械のようでもあり、数字の世界に形態的な美しさを見出す個性がとても魅力的です。
古谷 吉倫さんの作品は、建物、人物、動物、乗り物、小さく記号のように並べられています。繊細な輪郭線の美しさ、巧みな色使い、楽しい画面展開、といった要素が心地よく絡み合い、そこに現れる微かな地域性から空想の世界へと誘います。
植田 大智さんの作品は、次から次へと湧き上がる不規則な色・形が生成され、うねって流れるようです。具体的にモチーフが推測できそうなものと、見たこともないようなモノが自在に融合し、見るものの心がざわめきます。
今回の展示で二つの方向性を示した上田 匡志さん。「雪の女王」のように青い夜と雪の白が幻想的なおとぎ話の世界と、最近凝っているというスポーツ競技の機能的な形態を再構成した対比的な作品は、甲乙つけがたい魅力があります。匡志さんとご両親の昌史さん、益見さんにお話を聞くことができました。
上田 匡志さんはYELLOWに入所して5年目。小学生の頃は筆圧が弱かったのですが、仮名の書き方を練習しているうちに力強い線が描けるようになり、やがて中学生になると本格的に絵を始めました。目で見た記憶をもとに描きあげる匡志さんの絵はご両親が愛情を込めて「野望」と名付けており、欲しいものや行きたいところを表現していると言います。大好きなおとぎ話の国や、かっこいい乗り物、それらの野望を貯金の目標にして頑張り、家族旅行を楽しんでいます。先日は千葉にある懸垂型のモノレールにも乗りに行き、今度はサンリオビューロランドへ行くのが目標だとか。アトリエのある作業所が少ない中、YELLOWまでは自力で往復して通っていますが、ここにいると他の人の描画からも良い刺激を受け、楽しんで絵を描いているとのことです。
8人もの作者を一挙に紹介したYELLOW作品展。8月3日(日)まで展示中です。それぞれの個性と夢に彩られた浮遊する色彩を感じ取ってもらいたいと思います。
7月19日(土)より、YELLOW作品展 浮遊する色彩 がはじまりました。
夏らしい天気にめぐまれた20日の日曜日にギャラリーきりん舎を訪ねました。
今回の作品展は、大阪の泉佐野市のりんくうタウンで、アトリエ活動をメインに地域での就労継続支援や移行支援を行うYELLOWの登場です。アトリエ単独で行う展覧会は今回が初めてだそうです。参加作家数も、今までの展覧会では最多の8人が参加。多彩な作品が並びました。
来場された皆さん、熱心に作品に見入ってました。出品された作家さんが来られていたので、作品や絵を書き始めたきっかけなど、お聞きすることができました(インタビューの内容は次号で詳しく紹介します!)。
展覧会は、8月3日(日)までです。暑い夏になりそうですが、YELLOW作品展を見に綾部にお越しください。
7月19日(土)に開催いたしました塩見 篤史「祝福された風景 近代鉱業空間の風景論的考察」 (文藝春秋企画出版) の出版記念講演、無事終了いたしました。
産業遺産や工場見学ブームなど、近代産業の遺構や工業地帯に展開する大規模プラントなどが、新しい風景として注目されています。しかし、外的な視線からのみ語られることの多いこれらの風景について、炭鉱や銅採掘所など近代鉱業の現場で生き、それらの風景を生み出した労働者や関係者の心情や視点を追うことで風景が単なる鑑賞物ではなく、人間の心と強く結びついた生業の場であることを喚起されています。また、風景を外から見るものと、その中に生きるものとの立場の違いや、負の風景の再生の方法など、考えさせられるポイントもたくさんある講演会でした。
雨模様の天気の中、40名以上の方に来場していただきました。講演会に参加された皆様、ありがとうございました。
塩見 篤史(著)「祝福された風景 近代鉱業空間の風景論的考察」 (文藝春秋企画出版) の出版記念講演を行います。
塩見篤史
「講演では、明治維新を前後して日本が西欧近代の風景観を受容してから今日まで、毀誉褒貶の多かった鉱業風景がどのように感受されてきたのかを追いかけます。そして風景とは、“美‐醜”を基準とした常識的な観方をこえて、実は深く人間の<生>と結びついた意味深い現象であることを炙り出したいと思っています。」著者
日時:7/19(土) 18:30~20:00
会場:京都造形芸術大学 未来館 F302教室
主催:京都造形芸術大学ランドスケープデザインコース・NPO法人地球デザインスクール
ギャラリーきりん舎
事前申込み不要・無料
著者は、“自然との感動的な出会い”をテーマにし、日本庭園の庭師として活動。現在は、アールブリュット作品を中心に展示紹介する“ギャラリーきりん舎”を主宰。同時に、デスクトップガーデン・プロジェクトに参加し、またNPO法人地球デザインスクール理事として、宮津市 “丹後 海と星の見える丘公園” の修景をはじめ地元の地域づくりにもかかわっています。
最近の活動
「琵琶湖ビエンナーレ」出展 2012年
「デスクトップガーデン・プロジェクト」京都デザイン賞知事賞 2013年
「日本の形展」出展 イアリア・ミラノ 2014年
「シークレットガーデン展(イタリアのアーチストとの合同展)」出展 ミラノ 2014年
「ギャラリーAMY‐D」にてデスクトップガーデンと地球温暖化問題に取り組む写真家とのコラボレーションに出展 ミラノ 2014年
他
本はAmazonでも購入できます。