ギャラリーきりん舎」カテゴリーアーカイブ

11/23~12/8 若狭ものづくり美学舎きらりアート三人展

今回のきりん舎は、福井県在住者による芸術作品を対象とする「きらりアート展」で活躍している田中鉄也さん、田中さかえさん、武田千香さんに注目してお届けします。第一回きらりアート展を開催し、以来同展にたずさわっておられる若狭ものづくり美学舎(特定非営利活動法人若狭美&Bネット)さんの多大なるご協力をいただきすてきな作品が集まりました。田中鉄也さんは巧みな構成と色使いで視覚的に訴える独自の世界を展開、田中さかえさんは塗り箸などの端材を積み上げて夢で見たような風景を立体的に表現、武田千春さんは優しく心浮き立つような情景を描いています。

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7/13~ 21 ハレの日 Ⅱ ~ アトリエにしまち通りと仲間たち ~

昨年に続いて2回目となるハレの日シリーズ。きりん舎から派生したアトリエにしまち通りの作品展示を行いました。同時展示は、いこいの村・栗の木寮、京都太陽の園 宮津サンホーム。造形作家の松浦つかささんには木彫による仏像シリーズを提供していただきました。また2階には今回初めてせんだん苑こども園より、3歳から5歳児の子どもたちによる元気のよい作品が集まりました。14日には岸田ごんべさんのギターライブも行われ、展示に合わせた即興演奏で心地よい音色が奏でられました。

ギターライブの動画をYoutubeにアップしています。
アトリエにしまち通り展覧会ハレの日2応援ライブ前編

アトリエにしまち通り展覧会ハレの日2応援ライブ後編

よろしければ昨年の「ハレの日」のレポートもご笑覧ください。
7/20~7/24 ハレの日 ~アトリエにしまち通りと仲間達~

玄関の間から通路の間にかけては、アトリエにしまち通り8名による2018年度制作24点を展示しています。 続きを読む

3/30~ 4/14 静かな咆哮

三重県松阪市にあるまつさかチャレンジドプレイス希望の園https://kibounosono.info/goh/ からの作品が集まりました。

川上建次さん「トラの王」含む4点。絵の具のチューブから出した色を厚く塗り重ねるダイナミックな筆。ハイライトや影の色が繊細に重なり、輝きと深みを増しています。

早川拓馬さん「Cafe Girl」含む7点。鉄道と人物を融合させた新しい風景。造形の輪郭線をつたって、世界の鉄道車体が飛び交います。作者の思い出も画面に込められています。

ポンティ新平さん、フィギュア11点。色とりどりで奇妙な張り子人形は、すべて作者が考えた「ポピロン族」です。「パミラシュ」「アレンチャ」など一体ずつ名前があります。

岡部志士さん「Scratch Works Yay! Yay! Yay! NO.11」含む6点。心地よい絵は結果として残った抜け殻。作者の執着は画面のクレヨンを削り集めた「コロイチ」のほうなのです。

国際交流など幅広い活動に力をそそいでいる希望の園の軌跡は、ドイツで銅版画職人に教わって制作したという早川さんの作品「ドイツの親子」などでも垣間見えました。

この日はアーティストの早川さんと希望の園の理事・園長である村林真哉さんが来訪し、ギャラリートークに出演しました。

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11/17~12/2 秋にであう

秋深まるきりん舎の今回の展示は、岡山県真庭市・津山市を拠点に制作活動している特定非営利法人 灯心会、京丹後市久美浜町のふなや吉兵衛さんと社会福祉法人久美の浜かがやきの杜など、盛りだくさんの作品が集まりました。今回のギャラリーでは、アロマオイルがほのかに香って、心地の良い秋の空間を演出しています。以前よりきりん舎が交流している緑と香りの学校Tiaraから、代表の山本真里さんにお願いして数十種類もの香りをプレンドしていただきました。

庭から玄関へのアプローチに向かって最初に気づくのが大きな白地のテント。庭木に吊るされた作品は横3m、縦1.2mほどあるでしょうか。神楽谷さんの「OROCHI」シリーズに迎えられ、これまできりん舎で見た展示の中では最大級のスケールでわくわくする幕開けです。

玄関の間では宮本恵介さんの「少女」ほか7点の絵が並び、ちぎり絵の手法を使っているのが新鮮です。対象に使われている色紙は明快で無機質ですが、ちぎった紙片のいびつさや、紙片を重ねて生まれる凹凸に手作業の味があります。背景には広告紙を使っており、紙片の色が交じって点描効果をあげています。その梨地のような仕上がりがおもしろく、またよく見れば「85円」「ステーキ」「高知」といった思いがけない言葉や写真が目に飛び込んできてコラージュのような面白さも見られます。

階段の上下に飾られている絵は、村瀬貴彦さんの2点。いずれも「無題(棟方志功模写)」というタイトルです。縦1.2mほど、横0.4mほどの細長い段ボール紙に、クレヨン、絵の具を塗る筆触は力強い調子です。女性像、男性像が描かれていますが、奔放な筆づかいがもはや棟方志功の絵を飛び越えて作者本人の表現となっています。女性像は下部の緑と青に対して顔のあたりの金銀の彩色によるコントラストが効果をあげて光が射すように見えます。しかしボールペンで細かな独白や落書きなどの上書きも見られ、作者の感情の波が伝わります。

続きの間には藤原正一さんの色鉛筆による3点。ヨーロッパの街並みや日本の里の風景を表現した2点は穏やかで優しい色調が魅力的で立体的な空間把握も感じさせます。「数字のコンポジション」は線を重ねて画面を分割し、そこに生まれた幾何学模様が色分けされ、さまざまなアラビア数字を散らしています。羅列した数に意味はないだけに、作者の尽きない興味が純粋な美となり、めくるめく万華鏡のような世界が広がっています。

2階の廊下から奥の間には神楽谷さんの13点もの作品が並びました。絵画作品だけでなく、デジタルカメラ、パソコンのファン、基盤をパネルに貼り付け、粘り気のあるインクを上から垂らした立体作品などもあって表現の豊かさに胸が躍ります。こうした物質性を前面に押し出した作品がある一方、絵画では細いペンで精緻に描いた景色が画面の外にも続くことを暗示する「ミクロコスモス」や、明快な色と形を示して勢いにのる「OROCHI」シリーズもあり、多彩で正確な表現方法の選択と、形態や間合いのバランスの良さが際立ちました。

1階に戻ると、かがやきの杜から小田勇さん、宮田壮延さん、木下美紀子さん、井上勝さん4人の作者による絵が5点。作者の思い出、旅や憧れ、また作者にしかわからない興味深い対象などが、それぞれ個性ある色使いや筆触で描かれていました。

1階奥の間にはふなや吉兵衛さんの「彫り絵」による「トンボのめがね みおちゃんのたび」シリーズの全編12枚が並びます。触って楽しめる絵として吉兵衛さんが線刻や浮彫りで仕上げた板に着色して描いている力作です。濃くたっぷり塗り込んだ色使いは豊かで美しく、海の青、トンボの目の水色などを基調として、赤や黄色のアクセント、それらを引き立てる暗い色の配置など、迷いのない画面に引き込まれます。みおちゃんとトンボの視点に託された少し昔の日本の風景や風俗が大変楽しく描かれ、印刷された絵本もさることながら、実物の圧倒的な存在感を多くの人に体験してほしいと思いました。

7/20~7/24 ハレの日 ~アトリエにしまち通りと仲間達~

NPO法人きりん舎では、昨年5月から「アトリエにしまち通り」を開始し、ほぼ月2回のペースでアトリエを開放しています。利用者は全員で8名となり、それぞれが自分なりの表現を追求し、絵を描くことを楽しんでいます。

この一年間で利用者が描いた絵は全部で300点以上におよび、このたび作品を選んでアトリエ展を開催することとしました。綾部市の栗の木寮と宮津市の宮津サンホームを迎えて三者同時展とし、日頃からきりん舎の活動にご理解ご協力いただいている陶芸家の鈴木隆氏、造形作家の松浦つかさ氏、きりん舎理事で照明デザイナーである西村氏・日根氏からも作品が寄せられました。そして、きりん舎のウェブサイト運営を担う岸田氏の土曜日限定ギターソロライブもあり、ギャラリーはにぎにぎしく盛況でした。

まず、庭に入ってすぐ普段と様子の違うことに気づきます。鈴木隆氏の作品があちこちに見られ、いくつかは木にぶら下がって食虫植物のよう、またいくつかは地面に据えられた土器のよう。これらの不思議な形のオブジェは、実用の器ではなく、板状の粘土を継ぎ合わされており、時折線刻や手の跡や焼成の色によって表情が立ちのぼります。木の枝や木陰にひっそりたたずみ、環境との対話が試みられているようです。

室内でも2点展示されており、焼きあがった土の色がことのほか美しく、静謐なたたずまいに打たれます。

玄関の間では、アトリエにしまち通りの作品が、作者や絵の傾向ごとに展示されています。以下、羅列ですが紹介します。

クリスマスやハロウィンなど行事の楽しみを表現した絵、花や花火のモチーフをパターン化して構成した絵、なぐりがきのクレパスが存在そのものをとらえた絵、富士山や月と星の夜など風景と幻想をクレパスと水彩で美しく表現した絵。

「生きていてよかった それを感じたくて…」と広島にまつわる歌の言葉をつづった絵、黒々とした機関車の絵、衝動の赴くままに好きな消防車を躍動感いっぱいに描いた絵、動物のカバを素直に大きくとらえた絵、身近な文具を組み合わせて画面構成を試みた絵。

ハムスターの姿を幾何学的に分割しパッチワークのように色を組み合わせた絵、レインボーカラーに塗ったクレパス下地を黒色で塗り込めてハート型などを掻き抜いた絵、紅葉や桜など季節感を表現した絵、ポケットモンスターに出てくるキャラクターたちを模った粘土による立体。

習慣的に絵を描くという時間が重ねられ、イメージと手の結びつきが強くなり、表現の幅に遊びや熟達の兆しが見られます。展示方法に一つ注文をつければ、もともと無題が多いためでもあるのですが、作品名の案内が無かったのは残念です。作品名は絵に込められた思いを探るよすがとなります。今後は表示をぜひお願いしたいと思います。

階段下から奥の間の西側にかけては、寺岡義雄(栗の木寮)さんの作品「色いろ」シリーズ作品3点が続きます。段ボール、または画用紙の上に顔料系マーカーまたはクレパスを使い、いろんな色を使ってぐるぐるとうずまきや線などの幾何学的な模様や殴り書きの線を繰り返し描き、それを何層にも重ねています。段ボールに描いた絵は、枠取りで画面を左右に2分割し、マーカーの色を重ねる順番を変え、上に乗せられる基調色から、青系、ピンク~赤系に分けられています。より大きな画用紙で描いた絵は、模様を描くそれぞれ色が手の動きに合わせて海の底で動く波のように引いては押し寄せ、あわいで交じり合いながら画面に光と陰の空間を生んでいます。もう一つ画用紙に描かれた絵は先の幾何学的な積み重ねから打って変わって、クレパスで描きなぐり、面が現れる筆致そのものを味わっているように見えます。

続けての展示が西村美由紀氏、日根伸夫氏の照明インスタレーション3作品です。光の3原色や分光といった原理を応用しながら、光が拡散し、影が生まれ、ゆらぐ様子を回転や時間の制御を使って表現しています。照明デザイナーである二人は、これまでもきりん舎の展示で作品にあてる照明を調整してきました。作品の特徴を的確にとらえて引き立てる工夫は、寺岡さんの作品群との響き合いにおいても存分に発揮されていました。

奥の間西側は、玉井勝さん(栗の木寮)の「Forever AKB48」シリーズの6作品が目に入ります。アイドルグループ名に合わせて、機関車(?)、飛行機(飛行船?)、ビーチパラソル、テレビカメラ、釣りをする女の子(?)などが軽快な線で描かれています。細くても迷いのない線、とりどりの色合い、旅行やリゾートを思わせるイメージなどの表現にブレが無く、ポップで楽しい雰囲気があって明るい気持ちになります。

続いて坂東明さん(栗の木寮)の「野菜」は、大根やカブなど4つの冬野菜が土にもぐっているところを断面的に描いています。おそらくご本人が育てている野菜を絵にしていると思われます。というのも、野菜にはひげ根がたくさん生えており、それらを育てている畝のようなものも野菜の下に示すように描いているのです。作者の掴んでいるリアルな感触や愛着が伝わる絵です。

   窓際から東側は、高谷知恵子さん(宮津産ホーム)の5作品。真摯な観察眼と生活感や生命観が織り込まれています。「カーネーション」「もくれん」「天女」「夜桜」は、大きな紙に太い墨の筆が闊達に走り、母への思い、モチーフに託された艶やかさやしなやかさ、生命の力などが捉えられています。とりわけ「すずらん」は、「茎のところの表現が難しかった」とのコメントの通り苦心が感じられ、対象と向き合う力の強さが感じられました。

松浦つかさ氏からは3点の木彫が展示されていました。松浦氏は、仏師として、また現代アートのオブジェ作家としても活躍しています。今回は一塊の木片や丸太の節目から仏が現れており、古材の梁を展示台に使ったりして、実験的な試みとして展示したということです。それらは漆を少し添える程度で色付けされていますが、彫刻の跡は浅く荒削りで、そこに見えた仏の姿に従って最低限の手だけを添えるというアプローチです。節だった木の塊が放つ存在感、線刻に近い淡い表情は、円空さんの仏に近いように思えました。

7月21日土曜日には岸田氏によるギターソロライブもあり、ギャラリーは心地良い音に包まれました。ギターの音色は柔らかで、作品群との相性も抜群で、いつまでも聴いていたいようなライブでした。次回の展示では、もしかすると岸田氏のライブが拡大版で見られるかもしれません。どうぞお楽しみに。

3/24~4/8 旅するまなざし―みつめる世界

 

春の陽気に包まれたきりん舎の庭では、イヨミズキの薄黄色の花が満開です。今回の展示は、京都市ふしみ園 アトリエやっほぅ!!から5人の作品を展示しました。アトリエやっほぅ!!の展示は2013年からほぼ5年ぶり。以前展示のあった3人に新たな2人の作家を加え、過去2~3年ほどの近作を中心として作品が選ばれています。

 

1階の玄関で出会うのは嶋津 仁さんの作品。動物の顔を正面からクローズアップしてとらえた作品が以前から人気ですが、今回も人の顔や乗り物の正面を画面いっぱいに描いています。「微笑む男」は、顔の皮膚の黄色、薄い水色の目の上に吊り上がった眉、真っ赤に引き結ばれ片方に上がった大きな口、オレンジ色の輪郭線など、自信ありげな表情と色の組み合わせから明るい好ましさが感じられます。よく見ると鼻の周囲にかすかな緑色の影がさして立体感を表現し、頭の周囲にも緑色のグラデーションがほどこされてスローモーションのボケ味のようなおもしろい効果があります。「新幹線」では、金色、銀色のクレヨンが使われていて、その華やかさは生で見ることでしか味わえない楽しみです。繊細な色の重なりが揺るがぬ表現に隠されており、注意深い観察と創作への探求心が感じられます。

 

 階段下から次の間を飾るのは若林 義輝さんの4作品。コピック(マーカーペン)で描かれた目もくらむような抽象画の世界です。濃い色から薄い色まで発色豊かで幅広い色合いが表現できるコピックを存分に使い、通常では考えられないような細かな模様を果てなく繰り返して描き込んでいます。描き込むパターンは、明度・彩度の近似と対立、画面分割、滲み出し、干渉などテクニックを駆使して全体と細部を巧みにコントロールし、見る者をいつまでも引き込む作りになっています。「無題」は、微小なパターンがどこまでも無限に続いて曼荼羅図のように構成されており、信じがたい美しさに驚かされます。「創造と命の歴史」は、一見して海に浮かぶ島々を連想させて想像力を掻き立てられます。幾何学的な形の羅列は謎を残していますが、色の織り成すリズムが心地良い快楽を与えてくれます。

 

  1階奥の間は国保 幸宏さんの5作品を展示しています。対象の興味ある部分を画面いっぱいに描くところは先の嶋津さんとも共通する特徴ですが、こちらは厚く塗ったクレヨンにアクリル絵の具も重ね、無造作で勢いのあるタッチが魅力になっています。「チェリスト」は、奏者の動きをとらえたものなのか、チェロを抱えながら顔が左右に振れ、弦を抑える手が上下し、弓が弦の上を滑る様子が描かれているように見えます。躍動感あふれる表現により、懸命に弾いている奏者の魅力を十二分に引き出しています。画面下方は、下地に背景の薄緑色と同じ色が塗り込められており、画面に奥行を与えています。「鍾馗」は、民家の玄関の屋根上に置かれた守り神さまのことと思いますが、ここで描かれているのは肌色の顔をして、悪鬼を踏みつけながら刀を振り上げた姿です。動きのある描写によって鍾馗さんの活気ある様子をとらえています。

 

2階、階段上に並べられているのが小寺 由理子さんの5作品。それぞれの絵は実在の都市や建物をモデルにしながら独特の想像力を羽ばたかせ、色とりどりの楽しい街並みに仕上がっています。「酒蔵」は、日本のどこかにある大きな木造の酒蔵を描いているようですが、扉や窓が四角くモザイク状にパネル化され、とりどりのきれいな色が一つずつ塗り替えられています。そのカラフルな窓がステンドグラスのようでもあり、絵本を眺めているような楽しさにあふれています。「サンクトペテルブルグ」も、川の両岸に拡がる街の姿を楽しく膨らませ、街の個性を生かしながらも、作者のイメージが自在に展開されています。単純化された樹々、橋、車などの表象、「酒蔵」と同様ステンドグラスのような窓がちりばめられた建物が何個もリズムよく配置され、作者オリジナルの鳥瞰図を散歩することができます。

 

2階の奥の間に並べられたのは吉田 浩志さんの4作品。キャプションを見るといずれも色鉛筆で描かれたようですが、にわかに信じがたいほどの色鮮やかさで、筆圧の力強さが印象に残ります。響き合う色によるイメージの再構築が見事。「パイロット」は飛行機のコクピットに乗り込んだ男性を描いていますが、空と思しき水色の濃淡、青みがかった影が金属にうつり込む様子、ピンク色のパネル状の部品などが、黄色を基調にして描き込んだ機体と組み合わり、リアルなようでいてポップでカッコよい絵に仕上がっています。「寿司屋1」は雑誌などでも紹介される京都の店を描いていますが、のれんの字の色に影が差して変化しているところ、重ねて停められた自転車のタイヤの影など、見えるものをフラットにとらえる正確な観察眼と、色を再構築する作者の力、手の確かさが組み合わさり、魅力のある画面が広がります。

今回の展示では、アトリエやっほぅ!!の作品制作や展示への周到な心配りを強く感じました。限られた条件の中で作者の希望をくみ取り、画材をできるかぎり惜しまず提供することや、また作品や作者についての紹介をしっかり伝えようとする顔写真やキャプションデータなど、日ごろから注意深く工夫されているのが随所に見てとれます。そのおかげもあって、今回も大変楽しく充実した展示となりました。ぜひ足を運んでみてください。

11/4日~ 11/19 表現…楽しみの“みのり”

肌寒い冬のはじまりの日、きりん舎の庭のピンオークが紅葉しはじめています。今回の展示は、京都府舞鶴市の社会福祉法人みずなぎ学園・みずなぎ鹿原学園から陶と刺繍の作品と、鳥取県米子市の社会福祉法人もみのき福祉会から絵画作品を展示しました。

1階の玄関の間では、もみのき福祉会の川上敏郎さんの作品が目に入ります。ゲルインクボールペンを何色も使い、大きなパネルを塗り分けた作品です。青~緑系の色がぱっと目に入るすっきりした画面ですが、風になびくように横へと伸びた帯は、気の向くままに伸びて、画面下に落ちるものあり、ある色は他の色と巧妙に差し替えられるものありで、造形の妙を発揮しています。ボールペンの線跡がレースのように美しいです。

高橋延宏さんの絵は、大きな黒い画用紙の上にクレパスもしくは色鉛筆のような画材で色を浮かび上がらせています。赤系の色をベースとして、円、幾何学模様、流動的なリボンなどのモチーフが詰まっていて、ある模様が次の模様を生み、表裏に錯綜し、サイケデリックな雰囲気です。黒が画面の奥に隠れているため、明るい色がほの暗く光ります。

安井中さんは水色の画用紙を使い、ゲルインクボールペンで虹色の帯を上から下に垂らすように描いています。帯の中には2~3mm程度の大きさの何かがびっしりと連なっています。文字のようにも見えますが、規則性のある不思議な形にも見え、またモルタルのような素材にヒビを入れたようにも見えて、見れば見るほど不思議です。

大きな段ボール紙にアクリル絵の具を使い、仮面ライダーやサンタクロースなどの人物像をのびのびと描く足立伸一さん。仮面ライダーは足立さんの好きなモチーフの一つだそうです。段ボール素材によって気取らず、顔の大きさに比べて手足がひょろりと小さいヒーローの姿に脱力感があって笑いを誘います。

西岡和子さんは、ぶどう、すいか、サクランボ、などのフルーツを散らしたパターンを繰り返す作品。昭和40年代ごろの家庭雑貨に流行ったデザインが思い出されて、ぐっと来てしまいました。賑やかな画面からかわいらしく楽しい気分が伝わって、きらきらして発色がきれいなゲルインクボールペンの素材の特長を余すところなく発揮しています。

木村広美さんは大きな画面いっぱいに色とりどりに放射状に広がる花火もしくは花のようなものを描き込んでいます。力強くストロークをきかせて色鉛筆を塗り重ね、仕上げにゲルインクボールペンのラメ色も取り入れたもの。同系色・補色も使って、次から次へと一つ一つ花開くように迫ります。黒色の使用で暗がりから輝くような画面が魅力的です。

もみのき福祉会の作品は2階へと続きます。「ロールケーキ」と施設職員の方が呼んでいた作品は黄色い中に赤いらせん模様が大胆に描かれたもの。井村敏子さん、亀田寛人さん、黒見由美子さん、谷川望彦さんら4人の作者による共同作品でした。

湯原昌伸さんの3作品は、零戦、警視庁の白バイ、スポーツカーという男の子の好きなメカ3種といった趣向。パーツへの丁寧な描き込みはもちろん、均一な描線、観察に基づく正確な表現など、クールな批評性が感じられます。湯原さんのローマ字筆記体サインも、意思を感じさせて印象に残りました。

2階の間には先に紹介した足立さんの鳥や亀をモチーフにした4作品です。アクリル絵の具を使って大きくためらいなく描かれ、絵筆をより強く持ち、ストロークを跳ねながら鳥の羽などを表現しています。彩度の高い色使いはトロピカルな雰囲気によく合っており、明るく真っ直ぐな表現が見る者の心を打ちます。

表敷功さんの1作品は文字を色と形として再構成したもの。文字として読むと、「ほっと茶町 もみのき」といった文字が含まれています。描かれているのは作者がたまたま手に取った社会福祉法人施設のリストを写したもの。表象としての文字をパーツとして扱いながら、作者を取り巻く環境をうかがわせる作品です。

1階に戻り、奥の間ではみずなぎの作品群が展示されています。みずなぎは、昨年10下旬~11月上旬の 「大地と色彩」展(http://ayabe-kirinya.com/blog/archives/932)に続く2度目の紹介。今回も作品名や作者名のない展示ですが、前にも見かけたのと同じ人が作ったとわかる作品もあり、再会の気持ちで見ました。

白生地に点々とステッチを施し丸い形を連ねた作品。同心円状の模様に交じって人物や太陽らしきものも見えます。同心円は大小の大きさがまとまっているため、全体の印象もリズミカルで、糸の色の変わっていく様子とともに優しく泡立つような浮遊感があります。

象さんとサーカスとでも呼びたくなるような作品では、二頭の象やサーカスの玉などが鮮やかな色で縁取られています。刺繍模様は独創的で色鮮やか、頭を上げて鼻を高く持ち上げた象の姿が可愛らしいです。

白鳥ボート、海にかかる太陽といった2作品は、刺繍糸の多数本を取って一部の隙間もなく埋められています。一刺し縫う糸の束の中にいろいろな色が混ぜられているため、少しくすんだ色合いで仕上がっていますが、絵としての効果をあげています。これは前回にも「かぼちゃ」の刺繍を展示した作者であることがわかりました。針穴の太い畳針を使っている方で、大変な作業ということです。

同じ部屋では陶作品の大作も並びます。みずなぎでは信楽焼の窯元に依頼して穴窯で大きな作品を焼成してもらうそうで、地の利を活かした制作体制が見られます。

花瓶状で、底から口にかけて広がり、全体も大きく深く作られた器の3作品。縄のようによった粘土を重ねたあとがくっきりと見て取れ、積み重ねから大きなものを作る喜びと自信のうかがえる作品になっています。穴窯の焼成によって、灰をかぶって釉薬のような美しい艶と色目が加わっているのも味わい深く感じました。

同じく花瓶ですが、逆三角形のものと細長いものを展示した4作品。どちらも高台の不安なところが逆に「たてる」ことを意識させ、緊張感のある作品に仕上がっています。先に紹介した花瓶の作品よりも縄模様はなじんで消えていますが、手びねりらしく凸凹がほのかに影を落とし、味わいになっています。

粘土で大まかな土台を作り、粘土を握って手の指くらいの大きさ・形に作ったものを貼り付けていく手法で、龍やらくだ、人物像などを表現した作品4点。縄文土器の土偶のような偶像的な姿と力強い表現に覚えがあり、こちらも前回展示されていた人でした。迫力ある造形と同時にどこかとぼけた親しみやすさがあるのも魅力です。

橋などの建築物をモチーフにした作品4点。アーチ橋風あり、吊り橋風あり、さまざまなタイプの橋が表現されています。豆粒大の粘土を押して貼り付けているのが特徴ですが、土台、橋脚、上部構造と構造物を作り上げる楽しさが伝わる作品群です。この方は同時に小さくかわいらしい陶人形をつくるのも得意ということで、幅広い興味をもっているようです。

今回の展示会は「平成29年度地域アート展開催委事業」の補助金を受けています。

6/17〜7/2 わき出る思い〜三つの形

空梅雨の続く6月の空はさわやかで、庭木をすっきり剪定したきりん舎も涼し気です。今回の展示は敦賀市立やまびこ園の絵画、同市のワークサポート陽だまりのさをり織と糸、小浜在住の「詩音くん」と「夏美ちゃん」の書の作品が見られます。

1階の玄関と奥はやまびこ園の絵画作品。メンバーによる合同作品「いろんな気持ち」がまず目に入ります。複数のメンバーが手掛けた色とりどりの色(形)はそれぞれ主張しながらも見事に溶け合い、白いキャンバスの上で飛び跳ね、垂れ下がり、描き殴られ、混色され、抽象的な形となっています。バランスよく余白を保ち、一目見るなり美しさが引き立っている画面です。

山岸康憲さんの「名前はねえ」は、透けていく色の重なりが繊細な陰影を帯びて優しい効果を生み出しており、タイトルはぶっきらぼうですが、画面は雨にけぶっているような雰囲気を感じさせます。一方同じ山岸さんですが、「僕の生活」になるとキャンバスに展開される表象とタイトルの間に推し量ることのできない謎が横たわっており、作者の存在が空を切るように立ち上がります。山本千晴さんの「無題」2題の1点は、赤とピンクを塗りこめた大胆な構成、もう1点は赤とピンクに空色や群青色を合わせています。同園では同じキャンバスを2度3度と使って絵を新たに描き直しているということで、山本さんの絵も、厚く塗られた絵の具が経年変化ではがれ、その下から、過去に塗られた色がのぞいています。必ずしも作者の意図とはいえませんがそうした経緯も含めた作品鑑賞になります。作者不詳の「無題」はえび茶色がキャンバス一面を覆うように厚く塗り込められ圧倒的な迫力。

坂口裕さんの「野坂山の木々」は小さくちぎった色紙の紙片を貼り付けながら、大きめの点描を重ねるという独特の表現。ピンク、水色、オレンジ、黄色などの絵の具と緑色などの紙片を基調として全体が同じトーンで覆われていますが、重ねられたタッチの向こうに風景が封じ込められ美しい情景が広がっているように見えます。武田明子さんの「無題」は、何色かの色を大きく塗り分けた画面ですが、こちらもまたはがれた絵の具から過去に描いた画面が露出しており、一種のイメージになっています。画面の左手下方に張り付けられた紙片がなにがしかの意思を感じさせ、印象に残ります。鳫子はつゑさんの「顔と手」は、鮮やかで軽快な色使い、引き締まった画面の構成、大らかな手筋を感じさせる筆遣いが魅力的です。

川上大樹さんは「寿限無」と「いのちの花を」ですばらしい色彩と構成のバランス感覚を発揮しており、一目見るなり目が喜ぶ楽しさや幸せを掴み出しています。堂田隆宏さんの「お仕事がんばっている僕」は、ユーモアを感じさせるタイトルで画面を見ているうちに、赤色をベースとしてぐるぐると描き殴った筆のタッチに引き込まれ、説得力を帯びて作者の世界を物語ります。岩谷俶子さんの「もみじ、ひかり、秋のゆう」、タイトルと同じ文字が書かれていますが、朱の光のような燃える色がそれを照らしているようです。無造作な刷毛目の跡が抽象化を強めています。

ワークサポート陽だまりからは、さをり織とその制作過程で生まれる制作物などが展示されています。陽だまり43人とクレジットされているさをり織の「無題」、及び上山花梨さんのさをり織2点は、ストールのように長く織られたテキスタイル作品。同じ色の木綿糸を複数本ずつセットし、時折色を変えて縦に通したものが織の基調色となります。横方向は木綿にこだわらずさまざまな仕上げを施した糸を織り込んでいます。縦横の糸の組み合わせの変化で鮮やかな色合いが展開され、たわませたり添わせたりする中で立体的な動きが生まれています。紡ぎ糸の束2点は、作業の様子を伝えようと意図して展示したもので、きりん舎担当者によると糸を巻きとる仕草も各々の個性があっておもしろかったと言います。

山崎和彦さんの4点は、布の残り糸の始末で生まれた糸くずの山。丸まった糸が光沢を放ってふわりとして繊細な細工に見えてきます。他の作業者の方々は引き抜いた糸を長いままにしているのですが、山崎さんだけはそれを丸めておくそうです。工程的には意味のない行為ですが、そんな個人のありようが展示になっています。岩佐明子さんの「ボタン」は、正方形のキャンバスに色も形もとりどりのボタンを気ままに貼り付けたパネル状の作品。キャンバスにさらりと塗られた淡い色彩がボタンを引き立たせる効果をあげています。

2階では「詩音くん」と「夏美ちゃん」による、小学生時代に制作した書の展示。詩音くんは6点、夏美ちゃんは4点で作品タイトルはありません。紙に書かれた文字がそのまま意味を示す書ですが、一見して読める字もあればそうでない字もあり、解読しながら筆触に接するうちに、紙に落とされた黒が立ち上がります。詩音くんの書は、文字の大きさや配置、墨の含ませ具合、筆のスピードに安定したバランス感覚を備えており、「いいの いいの」「風ニモマケズ」「雨ニモマケズ」といった作品に見られるカスレやにじみ、ふくませた墨のたまりが情景を物語り、かつ文字という記号を逸脱した景色になっています。夏美ちゃんの書は言葉を記す心の先立つさまが筆跡に現れているように見えます。仲の良かった友だちが引っ越してふさいだ気持ちを表した「ゆきのさん…」の書では、心がおもむくままに形となってほとばしり、余韻を残しながら折り合いをつけていく気持ちを紙にとどめています。

3/18日~4/2 海の色 町の色 

春の気配があふれ出す3月下旬。きりん舎では「ワークセンターとよなか」そして「ふなや吉兵衛と仲間たち」からの作品が同時に展示されました。ワークセンターとよなかの展示は2015年3月に続いて2年ぶり、ふなや吉兵衛と仲間たちは今回初の展示となります。

きりん舎に入るとわいわいとにぎやかな声が聞こえ、ワークセンターとよなかから大勢が遊びにきていました。前回の展示でお会いした作者の方々も参加しており、懐かしい再会で筆者にとっては大変楽しいひと時でした。

1階は「ワークセンターとよなか」の展示作品が並べられています。ここの施設の特徴は一言でいって「多様性」。絵画あり、織物あり、陶作品あり、ぬいぐるみ人形あり…と作者一人一人の個性がバラエティーに富んでおり、それぞれが語り掛ける世界は、作品のテーマとなる題材も、表現手法も、ムードも、手の使い方さえも、他の人と全く異なっており、見た目にも明るく楽しい展示空間となっています。

渡辺悠太郎さんは、誰もが良く知っている世界の絵画や図像をデフォルメし、登場人物の顔はすべてポップなイラストタッチな鶏に返信させます。大づかみに捉えられた形態は清々しいのですが、名画の登場人物がことごとく雄鶏のコッコくん、牝鶏のコッキちゃんに置き換えられていきます。ビートルズの有名なレコードジャケット「アビーロード」もジョン、ポール、ジョージ、リンゴ・スターみな服装はそのままですが、顔だけコッコくんにすげ替えられ、作者の謎の意図がなぜだか可笑しいことになっています。ダヴィンチの「最後の晩餐」やフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」も文脈の無視っぷりが見事。下絵を描くと聞きましたが大きなパネルも割と苦労なく描いているようにも見え、あっけらかんと明るい画面が魅力的です。

山本信明さんの「富士山」は、山と思しき稜線をブロックに分け、そのブロックごとに地図の等高線のような細い線を色えんぴつで引いて重ねています。色とりどりの色鉛筆の線は、曲線を描きながら間隔はぴたりと等幅を繰り返すことで立体的なうねりが生まれて、見る者を心地よい線の旅に誘います。あまりに繊細すぎて写真ではその美しさを再現できないのが残念です。

市賀妙子さんは前回も優しく綺麗な花を描く作品を見せてくれましたが、今回は花だけでなく魚や鳥を描いた作品も披露。図鑑を見て多くの種類をきれいに羅列する作品も登場し、博物学的興味が広がるのが感じられました。静かな無風の心象風景を感じさせた作風から、「ひまわり」や「カワセミ」など形の表し方に市賀さんなりの世界の捉え方を伝えようとする態度があり、何か動的な解放性も見えてきました。

岩尾寛士さんの「はなちゃん」は、ぬいぐるみのフェルト人形たち。本体にはちゃんとした洋裁の仕上げで服やアクセサリーが着けられています。聞けば最初は小さな人形作りから始めたところ、だんだんと大きな作品に挑戦するようになったらしい。大きな人形は小さな人形の型紙をコピーで拡大して作られているそうで、最近ではそれが4倍、6倍と巨大化しているそうです。表情はどれも優しく、誰しもが心に求める想像上の友だちのような慰めを与えてくれます。

今井勇さん、今回はお会いできませんでしたが、ほのぼのとした作品群とご本人の抜群のおしゃれファッションセンスがとても印象に残っていました。今回は絵画だけではなくニット作品も見られ、「空飛ぶじゅうたん」は、かなり大きな下地布に、今井さんが時間をかけて編みためたニットパーツを縫い付け構成するコンポジション。色や形を組み合わせて空間を捉える力は卓越しており、今井さんという人の存在が作品の輪郭に現れています。

前回はギターや机、引き出しの木箱など、何にでも描くといった作品から野心的な挑戦で楽しませてくれた宮崎博明さん。今回はメディアをぐいっと転換して素焼きの陶土にペイントマーカーで色付けしたレリーフのような立体作品にチャレンジです。カラフルで楽しい作品づくりは前回と変わらず。「カジュアルな海」など大好きな魚や海に題材を取ったといいながら、頭に浮かぶイメージそのままに素早く手が動くのだろうと思わせます。最近は新聞紙を着色する作品に取り組んでいるともいい、相変わらず跳躍する心の闊達さを感じました。

「ふなや吉兵衛と仲間たち」の作品を展示した2階では、京都府の丹後地方にある久美浜町の漁師だったふなや吉兵衛さんの作品を中心に、仲間を含む作品群が展示されていました。吉兵衛さんの趣味の絵描きが高じて、仲間を集めてともに描くことをはじめたのがこの集まりのきっかけです。吉兵衛さんのほか、吉岡英子田中志保さん、木下美紀子さん、西健司さん、田村弘志さん、前田一行さん、井上勝さん、下小田勇さんらの展示は絵を描く楽しさにあふれていました。

筆頭株の吉兵衛さんの作品は、自信を感じさせるしっかりとした筆さばきで、想像力を羽ばたかせ、画面の中で時間を自由に行き来していました。鮮やかな色も不思議な造形もためらいなく表現されていて好感がもてます。仲間たちの絵もそれぞれの個性が遺憾なく発揮されており、イチゴの絵と文章を組み合わせたもの、ゴリラ、想像上の鳥の飛翔、など、老若男女が楽しくいきいきと活動されていることが十分にうかがわれました。

10/22日~ 11/6 「大地と色彩」 社会福祉法人みずなぎ学園 みずなぎ鹿原学園 社会福祉法人 南山城学園

dsc_8021風がにわかに冷たくなり、秋の庭も風情深まるきりん舎。このたびは舞鶴市のみずなぎ学園と城陽市の南山城学園 円の同時展示を行いました。

1階手前の部屋と2階はみずなぎ学園、1階奥の部屋は南山城学園の展示です。今回の展示は出品側の要望により、各作品のタイトルや作者名等の紹介キャプションはありませんが、施設ごとの作品の指向性や制作にあたっての考え方を感じ取れる展示になっています。

dsc_80311階手前にはみずなぎ学園の刺繍作品。これだけまとまった刺繍を見るのは、きりん舎でも珍しいパターンです。タペストリー状の大きい作品、小品、カボチャやテントウムシといったモチーフが一目みてわかるもの、幾何学パターンのデザインにかわいい花や動物を並べたもの、また抽象的な模様から色の波が紡ぎだされるようなものとさまざまなタイプの刺繍が並べられています。カボチャをモチーフにした作品は、立派なカボチャの実を画面いっぱいに配置。縫い目を重ね、巧みな色使いで野菜の色のグラデーションを表現していて見事です。形を単純化して取り出し、明確に見せる技に確かな腕を感じます。

610junかわいい子どものような人物二人が並んだ作品は、1cm程度の幅を保ちながら、刺繍糸をリボン状に繰り返し、色を表現しています。刺繍糸も太めですが、常に同じ調子で繰り返す縫い目によって、縫われていない部分の下地が輪郭として表れて力強い表現になります。繰り返し縫われた布にはしわが寄り、スタッフの方によって綿が入れられ立体的な仕上がりになりました。刺繍表現として誰にもまねできない個性を感じます。

dsc_8029赤い下地布に細い糸で小さく縫い付けられたぬいぐるみのような2匹の動物。熊と犬に見えました。2mm程度の繊細な縫い目で一見目立たないですが、数色の糸をよった刺繍糸を使っているのが鮮やかな下地布に際立ち、近寄って見るにつれて糸が浮き上がって全く違うイメージが広がります。この作品のように、いくつか違う色を一緒によって縫い込む作品がいくつか見られ、複雑な色合いを表現して効果を上げてみえました。縫い目の一目一目が下地を覆いつくすように縫い付けられ、圧倒的な波となってうねって見る人に迫ってきます。一糸にこめられた集中力の高さは鋭い緊張感をはらみ、他者としての存在を強く意識させます。

dsc_8101奥へ進むと、次の間には南山城学園の絵と陶の作品群が所せましと並んでいます。絵はクレヨンなどを使って画用紙や木板の表裏両面に描き殴った作品など、多彩なとりあわせで質量ともに見ごたえがあり、作り手の個性を強く感じさせる作品が集まっています。陶作品のいくつかは成形するというよりも、指で押してみる、ほじくり続ける、ごろごろと転がす…といった手の跡が如実に残る土の塊。手に伝わる感覚に没入し、それが知覚のほとんどすべてになりかわる時間を追う気持ちが理解できます。

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また、単純なピースを繰り返しくっつけて作った作品も見受けられました。厚みのある円盤状にした塊を合わせてくっつけて、芋虫の立ち上がったような形に出来上がった作品は、接着面でしわが寄り、迫力ある存在感を放っています。短くちぎった塊を継いで塔状に仕上がった作品は構造的なおもしろさを感じさせます。円状の塊を集めた作品としては、「河原の賽の石をつむ」という表現がイメージとして浮かぶような作品や、鈴のような丸く不可思議な形態がころころと生れ出た作品もあり、こちらは安易な解釈を拒むところに魅力を感じました。

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二階の展示は再びみずなぎ学園の展示になり、絵と陶の作品が並びます。水にうつる植物の影を思わせる作品は、水鏡のような静止した画面で清冽な印象。

 

 

 

また赤い山の峰々を思わせる作品では、くっきりと描いた輪郭が尾根と谷のように見え、メリハリのある画面構成の中にグラデーションにも見える陰影が幻惑的な印象を深く残します。その他の作品についてもいずれも潔い筆致で描かれ、力のこもった美しい画面で引き込まれました。

 

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陶作品では、細長い壺状のオブジェと人物もしくは動物の頭像が並べられています。壺のオブジェはどれも丈が高く全長60~80cm程度ほど。ほとんどは手びねりならでは自然な形と質感で、上に伸びあがる形が並ぶことで空間におもしろい効果を与えています。壺のうちの一つは、真ん中に穴のあいたチップ状の薄片がびっしりと張り付き、焼成による茶灰色~墨色の濃淡の表情が変化して豊かな印象に仕上がっていました。また実物大の動物の頭像のような作品においては、作品への集中力や技術の高さを感じさせました。

 

 

 

 

今回の展示は、状況の異なる二つの施設から集められていましたが、作品の一つ一つは一言でくくれない個性がありました。名前のない作品についてレポートするのは、少ないヒントによすがを求めて作品に目をさまよわせる体験でしたが、名前にしばられないからこそ、その作品を生み出した個々の手の動きを追い、その手と対話する展示になっています。

※ 今回の展示会は、京都府「平成28年度地域アート展開催事業」の補助金を受けています。